ものすごく静かでほとんどなんの盛り上がりもないストーリーなのに、なぜか惹かれてしまった。
カナダ、雪の降り積もる季節に、主人公のスランプ作家トマスは子どもを車で轢いてしまう。と思って冷や汗をかいたのだが、すんでのところで子どもは助かったのだった。いやしかし。。。
という始まりから終わりまで、トマスはずっと沈鬱な表情を崩さない。ジェームズ・フランコをこの役に当てたのは正解だ。彼の表情はこの陰鬱な映画に実によく合っている。個人的に、眉間に皺のある男性が好きなせいもあるかもしれないが、この映画のフランコはとても魅力的だ。眉間に皺のある女性はなぜ魅力的に見えないのだろう。ジェンダーバイアスに違いない。最近皺だらけになってきた上にたるんでいる自分の顔を鏡で見てぞっとしている(;^ω^)
閑話休題。
で、この事故を境にして、トムをめぐる女性たちの人生が変わり、別れと出会いがあり、喪失があり、嘆きがあり、憎しみと許しがあり、という展開なのだが、悲劇的な内容の割には誰も喚いたり怒ったりしない。終始物静かに登場人物は語り合い、月日は静かに、そしてあっという間に流れていく。
見終わってからこの作品が元々3Dで撮られていたことを知った。これを劇場で3Dで見ていたら、また違った感想を抱くかもしれない。しかし、自宅のテレビモニターで見たって、十分この登場人物に感情移入はできる。ストーリーや登場人物の感情の動きは現実離れしていると思うのだが、そんなこととは関係なく、なぜか画面に惹き込まれていく。それは画面構成が巧みだからだろう。ひたすら主人公トマスの表情を追う画風は、ジェームズ・フランコに過大な負担を負わせる演出だが、ヴィム・ヴェンダース監督の要求にフランコはよく応えている。音楽の効果といい、脚本と演出の間合いの巧みさといい、ヴェンダース監督のなかでも屈指のお気に入り作になった。世評の高い「パリ、テキサス」はちっとも面白いと思わなかったが、この「誰のせいでもない」はわたしにはとても印象に残った。たぶんその理由は、主人公が作家で彼の父親が大学教授という設定、つまりインテリが主な登場人物だからだろう。
そうそう、トマスの父は引退した教員で、「毎日何もすることがない」と嘆いている。「森に入って木こりになるとか、100キロマラソンを走るとか、いくらでも挑戦することがあるでしょー」と思わず画面に向かって突っ込みを入れておりました。
原題の"EVERY THING WILL BE FINE"は皮肉でしかない。(DVD)
EVERY THING WILL BE FINE
118分、ドイツ/カナダ/フランス/スウェーデン/ノルウェー、2015
監督:ヴィム・ヴェンダース、製作:ジャン=ピエロ・リンゲル、脚本:ビョルン・オラフ・ヨハンセン、音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブー、マリ=ジョゼ・クローズ、レイチェル・マクアダムス