吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ゴジラ

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 ハリウッド大作「ゴジラ」が公開されているのを記念して、本家本元の元祖ゴジラをご紹介。ついでにローランド・エメリッヒ監督で作られたハリウッド版にも言及します。

 

 ご存じ元祖怪獣映画は1954年、アメリカの水爆実験によって古代の恐竜が巨大化して東京を襲うという恐怖映画。3月1日のビキニ環礁における水爆実験で日本の漁船が被爆し、死者も出たことは「第五福竜丸事件」として有名だ。そしてこの映画での円谷英二の特撮が話題を呼び、以後シリーズ化されたことは周知のごとく。だが、今更驚くのは本作の撮影と美術を成瀬組から招いていること。主演が黒澤組の志村喬なのでこの映画を黒澤明監督作と思い込んでいたという人もいるぐらい、キャスト・演技陣ともに大物を招いていることが特筆に値する。

 今見れば特撮はおもちゃにしか見えないが、その作り方は極めて真面目で、「ゴジラ」という呼称も最初に襲われた島の伝説に由来するという民俗的なものであり、徹頭徹尾、当時の日本の政治・社会状況を如実に反映している。今ならとても東映のような会社でこの企画は通らないのではないか。福島の原発を元ネタに東宝が社会派特撮ものを撮るだろうか。

 それはともかく、映画はどんな小さなカットにも戦争の影を引きずった人物達が登場し、東京が丸焼けになるシーンも野戦病院のようなシーンもすべてが、当時の観客にとってほんの9年前の戦時を思い出させるものであったろう。だからこそ、この映画の中には鎮魂の場面も登場し、少女たちの合唱には思わず落涙しそうになる。


 前半の展開もテンポよく、ゴジラ登場の場面の恐ろしさ、音楽の効果、ともに大変な盛り上がりをみせる。

 セリフ棒読みとか特撮がアホくさいとか今から見れば噴飯もののマイナス場面を補って余りある、深いテーマが込められた素晴らしい作品だ。科学の進歩とその結果が生む悲劇を科学者自身が自覚し、その狭間で悩む、芹沢博士(27歳なのにもう中年の渋みがある)という存在の重要性も忘れてはならない。 

97分、日本、1954

監督: 本多猪四郎、製作: 田中友幸、原作: 香山滋、脚本: 村田武雄、本多猪四郎、撮影: 玉井正夫、音楽: 伊福部昭

出演: 志村喬河内桃子宝田明平田昭彦堺左千夫村上冬樹、山本廉、菅井きん