吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

日本のいちばん長い日

 新旧2作を見比べ。
 最初に新作を見て、「昭和天皇が格好良すぎる」と苦笑し、名作の誉れ高い旧作を見てみた。で、どっちが優れているとかいう話ならば、旧作のほうが見ごたえがあるだろう。しかし、新作もドラマに重点を置き、娯楽作としてはかなりいい線をいっている。
 日本がポツダム宣言を受諾するかどうか、という瀬戸際になったその当時の閣僚たちの動きを追い、とりわけ最後の8月15日の終戦の放送(「玉音放送」)をめぐる陸軍若手将校のクーデター未遂事件を描く。日本のいちばん長い日とは、1945年8月14日から15日正午にかけての24時間を指す。

 
 原作はどちらも半藤一利のドキュメンタリー小説であるが、旧作の原作としてクレジットされているのは大宅壮一である。Wikipediaによると、実際に書いたのは半藤だけれど、営業的見地から大宅の作品にされたらしい。
 それはともかく、二作品の作風の違いは、旧作がモノクロ、新作がカラーという点はともかくとして、旧作が実録物、新作がドラマ、という点であろう。旧作は仲代達也によるナレーションと、多くの登場人物について初登場のたびに字幕に人物の所属と氏名が出るというあたりが説明口調でわかりやすい。新作は主役を阿南陸軍大臣に絞って、彼の私生活を描いた点がドラマ仕立てで、人物像が浮き上がってわかりやすい。どちらがいいかは好みの問題である。しかし、好みの問題ですまないのは天皇の扱いだ。天皇の戦争責任を問いたい者の立場から言えば、あまりにも天皇の描き方が「終戦に導いた英雄」になっている点が承知ならないだろう。
 旧作では天皇は後姿が映るだけで、ほとんど存在感がない。正面からの映像はほぼ皆無で、あったとしてもぼやけている。かほどさように最高権力者の存在が希薄と言うところに、この国の権力構造の無責任さが表れている。
 あとは、阿南陸軍大臣の描き方が新旧両作の際立った違いだ。旧作では三船敏郎が演じて、ものすごい重厚感を漂わせている。新作では役所広司が好人物をひょうひょうと演じ、特に割腹前の飲酒の場面では酔っ払いのおじさん然としている。どちらにしてもこの阿南陸相は謎の人物だ。本当に陸軍最後のクーデターを阻止する気があったのかどうか、よくわからない。というか、ポツダム宣言の受諾に賛成したのかどうかも映画を見ている限りよくわからない。もちろん史実は閣僚全員の賛成によってポツダム宣言は受諾されているわけだが。阿南がポツダム宣言受諾の賛否を採決している閣議の場を書記官を伴って中座し、別室で陸軍省に電話する場面が印象的だ。「大丈夫だ、ほとんどの閣僚が反対している。安心しろ」とクーデーター計画を練っている血気盛んな青年将校をだまして抑える。この場面は旧作にはなかったかも?

 気になったのは、旧作では東条英機が登場しなかったこと。これはなぜだろう。
 阿南の割腹シーンはやはり新旧両作とも迫力がある。「あ、この場面は見覚えがある」と瞬時に既視感に襲われた。そうだ、やはりこれは有名な場面なので、繰り返しドキュメンタリーやアニメや再現ドラマなどで見ているのだ。

 役者の活舌の悪さに参ったのは新作で、一方、役者の迫力と巧演にうなったのは旧作。とはいえ、新作の鈴木貫太郎を演じた山崎務は非常に印象に残る演技をみせた。好々爺にしか見えなかった旧作と違って、老獪な政治家の顔を垣間見せる新作の鈴木貫太郎はなかなかに魅力的な人物である。いずれにしても新旧とも必見作だろう。

日本のいちばん長い日(1967)
157分
日本
監督:岡本喜八
製作:藤本真澄田中友幸
原作:大宅壮一「日本のいちばん長い日」
脚本:橋本忍
撮影:村井博
音楽:佐藤勝
出演:宮口精二:東郷外相
戸浦六宏:松本外務次官
笠智衆:鈴木総理
山村聡:米内海相
三船敏郎:阿南陸相
小杉義男:岡田厚相
志村喬:下村情報局総裁
高橋悦史:井田中佐(陸軍省軍務課員)
井上孝雄:竹下中佐(陸軍省軍務課員)
中丸忠雄:椎崎中佐(陸軍省軍事課員)
黒沢年男:畑中少佐(陸軍省軍事課員)
吉頂寺晃:梅津参謀総長
玉川伊佐男:荒尾大佐(陸軍省軍事課長)
加藤武:迫水書記官長
加東大介:矢部国内局長(NHK)
石田茂樹:荒川技術局長(NHK)
北村和夫内閣官房佐藤総務課長
神山繁:加藤総務局長(宮内省
浜村純:筧庶務課長(宮内省
児玉清:戸田侍従
小林桂樹:徳川侍従
中谷一郎:黒田大尉(航空士官学校)
新珠三千代:原百合子
松本幸四郎今上天皇

 日本のいちばん長い日(2015)
136分
日本
監督:原田眞人
製作代表:大角正ほか
製作総指揮:迫本淳一
原作:半藤一利『日本のいちばん長い日 決定版』(文春文庫刊)
脚本:原田眞人
撮影:柴主高秀
音楽:富貴晴美
出演:役所広司阿南惟幾
本木雅弘昭和天皇
松坂桃李:畑中健二
神野三鈴:阿南綾子
大場泰正:井田正孝
中嶋しゅう東條英機
蓮佛美沙子:阿南喜美子
渡辺大:秋富
三船力也:阿南惟晟
キムラ緑子小松和重
松山ケンイチ
堤真一
山崎努鈴木貫太郎