吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

Summer of 85

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 警官に連行され、うなだれている美少年。彼は「ある死体に衝撃を受けた」とカメラに向かって独白する。そして、「これから死体が生きていたときの物語を語る」と言う。暗い幕開けの映画なのに、なぜか突然明るくテンポのよい音楽(The Cureの85年のヒット曲)と共に物語は巻き戻る。目くるめく夏のひと時の少年たちの恋へと。

 もうこの巻頭のシーンだけでオゾン監督、復活! というゴングが鳴ったような躍動感がある。前作の真面目な社会派「グレース・オブ・ゴッド」も悪くなかったが、こんどのオゾンはこれまでの様々な自作を想起させるような内容だ。そして何よりも画面が美しい。青い空と海、フランスはノルマンディの海岸地方が舞台、登場するのは絵にかいたように美しい少年たち、ときたら眼福以外にない。さらに音楽の使い方が絶妙に上手くて、よくぞこんな演出を考え付いたものだと感嘆するような場面があるので、楽しみにしてほしい。

 インターネットも携帯電話もなかった1985年、今よりも同性愛には偏見と風当たりが強かった時代に、出会った瞬間から恋に落ち、やがて愛し合うようになる二人の激しく瑞々しい6週間が描かれる。冒頭で一方の死が予告されているから、サスペンスの味付けもあるのかと期待するが、それは観客の胸騒ぎを喚起するオゾン監督の手練だ。

 オゾンの作品に、高校教師と文才ある教え子少年の物語「危険なプロット」(2012年)があるように、彼は教師と教え子の権力関係の逆転や恋愛を好んで描いている。そこには虚実の境が限りなく曖昧になる、作話上の騙し絵の企みがあるので、ひょっとしてこんどの作品もそれかも、という疑いが見ているうちに持ち上がってくる。オゾンに騙されるのは観客の快感でもあり、いつしか、騙してほしいという欲動が沸き起こる。 

 無駄なカットがまったくない凝縮された100分間の映画には、70~80年代テイストに満ち溢れた音楽も心地よい。懐かしいロッド・スチュワート「Sailing」が耳に残る、初恋疾走物語。忘れていた感覚が蘇るような、甘くて痛い初恋疾走物語に耽溺できるのも、映画の醍醐味だ。

2020
ETE 85
フランス Color 101分
監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン

原作:エイダン・チェンバーズ「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店
撮影:イシャーム・アラウィエ
音楽:ジャン=ブノワ・ドゥンケル
出演:フェリックス・ルフェーヴル
バンジャマン・ヴォワザン
フィリッピーヌ・ヴェルジュ
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
メルヴィル・プポー