吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

12か月の未来図

  「僕たちは希望という名の列車に乗った」と同じ日に見た。これもまた秀作で、フランスの教育事情の一端を描いた多くの作品の中でもとても良い出来。ただし、数年前に話題になった「パリ20区 僕たちのクラス」を未見だったので、比べることができない。
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 フランス、というかパリ郊外の公立学校の学級崩壊ぶりはいくつもの映画で描かれてきた。その中では、この作品で描かれる中学校はまだましだ。学級崩壊といってもかつての日本のように教師への暴力が横行しているわけではないし、窓ガラスが全部割れているということもない。生徒たちも童顔でみな可愛い。中心人物のセドゥという問題児などは、拗ねる表情やしぐさが実にかわいい。なんだか抱きしめたくなるぐらいだ。
 物語は、パリ市内にある名門高校の教師がふとしたことで郊外の問題校に1年間異動させられる、というもの。いやいや異動したフランス語教師(つまり、国語教師)はもともとエリートばかりを教えてきた厳しい教師で、高慢ちきでいやな感じだ。こんな教師が郊外の荒れた学校で生徒たちをまともに教育なんかできるはずがない。
 と、観客はみな思う。まず、郊外はパリ中心部と風景が全く違う。オスマン建築(19世紀のジョルジュ・オスマン知事によって構築された大都市パリの建築様式)の美しい街並みのパリが映ると思えば、フランソワ・フーコー先生(なんちゅー名前!)が異動していく先は低所得者向けの団地が並ぶ殺風景な場所だ。フーコー先生もあまりやる気がでないが、赴任している若い教師たちはもっとやる気がなさそうに見える。
 そしてフーコー先生が担任となった3年生のクラスは大半の生徒が黒人かアジア系だ。一番の問題児がセドゥという少年で、彼は落ち着きもなければ勉強する気もないし、なにかと反抗的態度を見せる。しかしフランスではどうやらそんな生徒を退学させるシステムがあるらしい。「指導評議会」という懲罰委員会を開いて生徒と保護者を呼びつけ、停学処分を言いつける。最も重い処分の場合は退学になる。セドゥもそんな処分対象となる事件を起こしてしまうのだ。
 最初はあまりやる気のなかったフーコー先生、実妹から勉強のできない子の気持ちについて教えられてから俄然頑張り始めて、しかも生徒の可能性を信じて、とても面白い授業を始める。それはヴィクトル・ユゴーレ・ミゼラブル」を使ったグループディスカッションだ。
 この映画は生徒たちの成長物語であると同時に教師の成長物語でもある。そのサイドストーリーとして、中年の冴えないフーコー先生の密かな恋物語が置かれている。これもなかなか微笑ましく、ちょっとスリリング。
 セドゥを演じた子役がほんとうにリアルに可愛いと思ったら、なんと本人だった。この映画の生徒たちは本人が本人役を演じているという。素人にここまで演技させた演出力の源泉は、2年間に及ぶアヤシュ=ヴィダル監督のリサーチである。モデルとなった学校に2年間通い詰めて生徒や教師とディスカッションを続けたという。フランス版是枝裕和かな。
 ラストシーンの鮮やかなユーモアに脱帽。いい映画を見せてもらいました。 
(2017)
LES GRANDS ESPRITS
107分
フランス

監督:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル
製作:トマ・ヴェルアエジュ、アラン・ベンギーギ
脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル
音楽:マルタン・カロー
出演:ドゥニ・ポダリデス、アブドゥライ・ディヤロ、レア・ドリュッケール