吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

マンデラ 自由への長い道

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 マンデラの自伝に基づく物語だけに、本人の内面がわりあいよく描けているし、本人でなければ知りようのないことも描かれている。しかし逆に、誇張や韜晦もあるのではと思えるが、伝記的事実についてわたしはよく知らないため、この映画を素直に受け止めて素直に感動した。

 この映画を見ながら思い出していたのは映画「マンデラの名も無き看守」(http://ginyu.hatenablog.com/entry/20100529/p1)であり、小説「母から母へ」(http://ginyu.hatenablog.com/entry/2003/01/17/000000)であった。最後にマンデラが大統領に就任する場面では「インビクタス 負けざる者たち」(http://ginyu.hatenablog.com/entry/20100528/p1)が心に浮かんだ。そしてもうひとつ、「遠い夜明け」のスティーブ・ビコのこともうっすらと想起し、この映画ではビコがまったく台詞にすら登場しないのはなぜだろうと疑問に思った。マンデラとビコには接点がなかったのだろうか。

 若いころのマンデラを演じるときのイドリス・エルバは全然本人に似ていないのだが、年老いてからは突然実物に似せたメークになっているから笑いそうになった。マンデラの若いころを覚えている観客が少ないためにこうなったのだろう。ほとんどの観客が晩年のマンデラの笑顔しか知らない。

 マンデラのANCが武装路線を取ったこと、その一方で大統領に就任と同時に「復讐はいけない。若いと赦しを」と感動的な演説をしたことなど、いくつか重要な出来事がある。マンデラの解放には国際世論も大きな役割を果たしたことも描かれていた。いっぽうで、日本人がまったく登場しないため、「わたしたち」が何をしていたのか、が見えないのが残念だ。反アパルトヘイトの運動はもちろん日本でも闘われた。ソウェト蜂起もしばしば「○○周年弾劾/記念」といったポスターを見かけた。一方で、日本人は名誉白人という不名誉な称号をもらっていたことも忘れてはならない。

 個人的には、77年以降の反アパルトヘイト運動についてはさまざまなことが思い出されて感慨深かった。やはり同時代が「歴史」として描かれると感動する。

 マンデラが家庭を省みず闘争に明け暮れ、あげくに浮気を重ねていたことなど、最初の妻との確執も描かれていたのはいたずらに彼を英雄視しない点で好感が持てた。それにしても獄中27年は長すぎる。二度目の妻ウィニーの苦労は並大抵ではなかっただろう。マンデラが釈放されてから彼らの間の溝が深まる様子もとてもよくわかる。マンデラが、「わたしはリーダーだ。リーダーは民衆が間違っているときはそれを指摘し、正す」と演説したことが強く印象に残る。独裁者としての片鱗も見せていたのか? ともとれるような発言だ。彼が獄中でもかなり頑固に自分の意見を押し通していたことがサラリと描かれていたことも印象深い。

 マンデラウィニーが拳を上げて演説する様子、「取り返せ! アフリカを!」とシュプレヒコールで民衆の大歓声が上がる場面など、いくつも胸が熱くなり血沸き肉踊るシーンがある。大統領就任を頂点として終章にいたる本作は、マンデラの政策の真骨頂が「和解政策」にあることをもう少し描いてもよかったのではないか。そして、マンデラ後の南アフリカの経済困窮など、いくつもの課題を描いていない点も不満だが、もうこの尺では無理だろう。

 感動作なのに全然ヒットしている様子がないのが残念だ。

MANDELA: LONG WALK TO FREEDOM

146分,2013、イギリス/南アフリカ

監督: ジャスティン・チャドウィック、製作: アナント・シン、原作: ネルソン・マンデラ『自由への長い道 ネルソン・マンデラ自伝』、脚本: ウィリアム・ニコルソン、音楽: アレックス・ヘッフェス、主題歌: ボノ『オーディナリー・ラヴ』

出演: イドリス・エルバナオミ・ハリス、トニー・キゴロギ、リアード・ムーサ、リンディウェ・マチキザ