カミュつながりで、次はカミュの未完の遺作小説を原作とする映画をご紹介。カミュを思わせる作家が主人公で、彼が生まれ故郷のアルジェに帰ってくる数日を描いている。ほぼ、カミュの自伝と言ってさしつかえないだろう。
地味な作品なんだけれど、いまこの時期に見ると感慨深いはず。フランスはこの百年、アラブの人々との確執の中で歴史を紡いできた国だ。過去の歴史から教訓をくみ取ってほしいと心から願う。
カミュは植民地に生まれ育った、貧しい白人=フランス人だ。植民地のフランス人がみな搾取の上前によって豊かに暮らしたなどというのは都市伝説なのか、と思わせるほどカミュ(この作品ではジャック・コルムリという名前)の家は貧しい。父親がおらず、母と祖母に育てられている少年カミュは、底辺層の人間であるが、文学的才能を担任教師によって見出される。彼がこのときにこの師と出会っていなければ、その後のカミュは存在しなかっただろう。小学生の頃の教師の影響は本当に大きいし、大事だと痛感する。
アルジェリアで独立戦争が始まっても、ジャック・コルムリは自分の立場を鮮明にすることができない。悩める植民地フランス人である主人公の、永遠に宙ぶらりんな「不安」と「苦悩」を、ジャック・ガンブランは寡黙に演じる。その面構えは「部長刑事」に出演していた俳優に似ていて、作家というより警官のようだ。
成功した作家として故郷に帰還したジャック・コルムリは、しかし、自らの過去と向き合いながら、現実の「戦争」に真正面から向き合うことを避ける。コルムリの苦悩を映画は淡々と描く。彼のアルジェリア人の友人たちの労苦と困難、悲劇を前にして、無力な人間であることが彼を深い苦悩と絶望に追い立てる。
コルムリ(カミュ)が訴えるのはフランス人とアルジェリア人の共存。だがその言葉はその両派から非難を浴びる。
「私は正義を信ずる。しかし正義より前に私の母を守るであろう」。
政治的な主義主張よりも、母への愛を優先させたカミュ。いや、優先させざるをえなかったのだ。解放戦線の暴力を肯定すれば、その無差別テロの矛先がわが母に向かう可能性もある。カミュは永遠に宙吊りになっていた。そのカミュにわたしは心を寄せる。
地味なので、ヒットしなかった映画だ。けれど、アルジェリアの強烈な太陽と海が目に焼きつき、いつまでも記憶に残る作品だった。
LE PREMIER HOMME
105分、フランス/イタリア/アルジェリア、2011
監督: ジャンニ・アメリオ、製作: ブリュノ・ペズリー、原作: アルベール・カミュ、脚本: ジャンニ・アメリオ
出演: ジャック・ガンブラン、カトリーヌ・ソラ、ドゥニ・ポダリデス