吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

千年女優

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 これはいかにもアニメらしい作品で、時空間を飛び越え、映画の垣根も飛び越える楽しくも切ない物語。

 原節子がモデルになっているのだろうと思わせる、人気絶頂期に忽然と引退した女優・藤原千代子の自宅を訪問する映画製作会社の中高年社長が狂言回し。彼がかつて藤原千代子の熱烈なファンだったことがユーモラスに語られていく。その崇拝ぶりが面白くも可愛らしい。社長に随行してきたのは若きカメラマン。彼は冷静に千代子のことを見ている。この二人組が千代子の物語を追いかけてカメラを回し続けるという趣向。

 今や七十代半ばであろうか、老いたとはいえ上品で美しいおばあさんになった千代子は、自分の伝記ドキュメンタリーを製作するという社長に半生を語っていく。映画女優になった十代のころからの思い出をたどる千代子は、秘めた恋を成就させるため、いや、恋した男に一目でも会いたいために女優になったのだ。彼女が主演した数々の映画とともに、その恋は壮大なスケールで語られていく。

 特高に追われる若者、満州へと続く道、学徒動員、戦争……。千代子が恋した「思想犯」の男はいったい満州のどこに消えたのか。千代子は満州での撮影に臨むが、男には会えない。どれだけ多くの映画に出演してもどんな役を演じても、彼女はひたすらに名も知らぬ若者を追い求めていた。

 社長とカメラマンはその姿を追いかけて時空を超える。時に映画の中に飛び込み、千代子とともに疾走する。千代子の物語はフィクションなのか事実なのかその境界も曖昧になり、若く愛らしく一途な千代子の姿に感激して社長は滂沱の涙を流す。恋、笑い、アクション、と次々にスピーディに展開する画面が美しい。時代劇あり、戦争ロマン有り、SFあり。数々の実際の名作映画を下敷きにしたと思われる場面が次々と登場する。

 追いかけて追いかけて追いかけて、求めて求めて求めて、いつまでもその手が届かない旅路の果てへ。この純愛と自己愛にただ茫然とするラストシーンであった。(Netflix

2001
日本  87分
監督:今敏
演出:松尾衡
企画:丸山正雄
脚本:今敏村井さだゆき
撮影監督:白井久男
音楽:平沢進
声の出演:藤原千代子(少女期) 折笠富美子
藤原千代子(中年期)小山茉美
藤原千代子(老年期)荘司美代子
立花源也 飯塚昭三
立花源也(青年期)佐藤政道
山寺宏一
津嘉山正種