この映画は思わず2回3回と部分的にではあれ見直してみた作品だ。なぜか特定の場面について繰り返し見たくなってしまう。何を確認しようとしたのか、鑑賞後半年も経った今では思い出せないのだが、超地味な映画なのに心に残る作品だった。その要因は実は主役の演技ではなく、脇役の演技に感動したからだ。
劇伴音楽もなく、場面はひたすら拘置所内の面会室で、映画というよりも舞台劇のような作品だから、役者の演技力こそが勝負と思える。もちろん脚本の良しあしが大きく作品の評価を左右する。主人公はキリスト教の教誨師・佐伯で、演じるのはこの作品のあとほどなくして亡くなってしまった大杉漣。佐伯師が語り合う死刑囚は6人。それぞれが個性的で、あまりにも個性的で、気のいいおじさんもいるし、身勝手なおばさんもいるし、サイコな連続殺人犯もいるし、ひたすら沈黙を続ける人間もいる。
彼らに向かって静かに語り掛け話を聞く佐伯自身の葛藤や疑問が徐々に観客にも伝わってくる頃、死刑が執行される。殺されたのは誰なのか? なぜその順番で?
死刑制度に対する静かな疑問がさざ波のように寄せて来る作品ではあるが、「あんな人間なら死刑でも当然でしょ」と思われる人物もちゃんと配剤されている。だからこそ、なぜ死刑なのか、なぜ死刑に反対なのか、いっそう考え込む。
やがて、狭い面会室から場面が外の世界に出る時がくる。それは佐伯教誨師の回想である。彼もまた死刑と無縁な人間ではなかったのだ。死刑囚の立場と、彼らの話を静かに聞き教え諭す立場にある教誨師との立ち位置の垣根がなくなりもはや曖昧となり混然一体となり、観客もこの映画に登場する死刑囚たちのあまりのリアリティにもはや惹きこまれ過ぎて自分を失いそうになる……。
ある意味恐ろしい作品であった。(Amazonプライムビデオ)
2018
日本 Color 114分
監督:佐向大
エグゼクティブプロデューサー:大杉漣ほか
脚本:佐向大
撮影:山田達也
出演:大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研