吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ともしび

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 不思議な映画だ。ほとんどシャーロット・ランプリングの一人芝居のようであり、状況説明の台詞は何もなく、ただ淡々と老女の孤独な日常生活が繰り返し映し出されるだけ。ほとんどドキュメンタリーのような。

 なんといっても彼女のあの恐ろしいまなざし。冷たい口元。これがずーーーーっと画面に張り付いているのだから、怖い。しかも、何度も服を着脱する場面が繰り返され、ついには全裸まで披露してしまう。全裸まで見せるというのに彼女の内面を表す台詞は一つもない。徹底的に言葉で語らない映画なのだ。

 映画の冒頭で夫が警察に出頭し、収監されていく場面があるのだが、これが何の犯罪なのかが最後まで明示されることはない。しかし、おそらく……と思っていると最後の最後に証拠が出てくるという驚き。

 思わせぶりな場面はいくつもある。最後に登場する鯨の死体が映画全体の雰囲気を一層暗くして、人間の末路をも見せて悲しい。これはこの年齢(70代)およびその年齢に近い人間が見るほどに他人事とも思えずいたたまれなくなる悲しくつらい物語だ。

 人生の最後を心穏やかに過ごしたいと願う人の想いを裏切ったのは誰なのか。それは誰の罪なのか。サスペンスにジャンル分けされているが、本作は静かに味わう人間ドラマの趣がある。(Amazonプライムビデオ)

2017
HANNAH
フランス / イタリア / ベルギー  Color  93分
監督:アンドレア・パラオ
製作:アンドレア・ストゥコヴィッツほか
脚本:アンドレア・パラオロ、オルランド・ティラド
撮影:チェイズ・アーヴィン
音楽:ミケリーノ・ビシェリ
出演:シャーロット・ランプリングアンドレ・ウィルム