吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

レ・ミゼラブル

 この日記を書いている時点は実際には12月31日である。大晦日を迎えて、今年見た映画のかなりの本数の感想をアップしていないことに気づいた。別に宿題じゃないんだからいつ書いても書かなくても全然誰にも迷惑をかけていないとは思うのだが、なんとなく書いてしまわないと気持ちが悪い。時間が経つほど書くのに難儀するし。実を言うと、もうこのはてなダイアリーはやめようかとも考えていて、ひょっとしたら今年が最後になる可能性もある。
 そんなこんなで、とにかく積み残した荷物をせっせと片付けるため、年があけても暫くは2012年に見た映画の感想を書き続けることとしよう。

 で、年末年始怒涛の映画評マラソン何本書けるかシリーズ、まずは現在上映中の本作を。今年の正月は映画館で見たい作品がほとんどなくて、これほど不作なのは珍しいと嘆いている。いずれにしても老親介護のために年末年始はほぼ自由な時間がないので、どうせ映画館へは行けないから、まあいいか。

 前置きはこのぐらいで。本作はマスコミ試写にて鑑賞、以下は機関紙編集者クラブの「編集サービス」誌のために書いた原稿を転載。



 原作は言わずとしれた文豪ビクトル・ユゴーの大河小説。わたしは小学生の頃、『ああ無情』というタイトルの少年少女向け文庫を読んで、いたく感動したものだ。今回の映画化の原作はイギリスの大ヒットミュージカルである。
 ミュージカルとはいえ、すべての台詞が歌になっているのには面食らった。いきなり歌い出して、そのまま最後まで突っ走る。この手のものにはいくつか成功例があるが、一方で違和感を感じる人も多そうだ。それに、ミュージカルなのに踊りが一切ないのも寂しいところ。

 舞台は19世紀フランスだが、演じる役者はイギリス人やオーストラリア人であり、台詞も全編英語。見ているうちに何の違和感もなくこれはイギリスを舞台とするイギリス映画だと思い込んでいる自分を発見した。味わいもまたイギリス映画のそれなのだ。生真面目な演出、文字通り「ミゼラブル」(哀れな、悲惨な)境遇に陥れられる貧しい人々への同情と共感を込めたストーリーは、イギリスの労働者映画の香りに満ちている。

 してそのあらすじは。パン一切れを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャンは、仮釈放の身となってもなお貧しさのドン底にあることには変わりなく、空腹に耐えかねて教会の銀食器を盗む。恩義を裏切ったバルジャンを赦し、さらに燭台までも与える司祭の寛容。教科書にも載ったかの有名なエピソードである。ジャン・バルジャンはこの後改心して企業家となり市長にまで出世するという波瀾万丈の人生を送るわけだが、10年などあっという間に過ぎてしまうので、どうやって事業に成功したのか不明。「私はこうして大金持ちになった」成功譚を知りたいという自己啓発書レベルの下世話な好奇心は満たされない。

 本作の魅力は、原作が舞台劇とは思えないほどの映画的スケール感に満ちていて、しかも描写がリアルなこと。ラスト近くの下水道の場面、ジャン・バルジャンが汚水まみれになるところは思わず目を背けたくなるような細密な演出が施されていて、画面から臭ってきそうなほどである。それに引き続くジャン・バルジャンの病気の場面は、きっとあの下水道を彷徨ったことによる感染症が原因に違いないと勝手に短絡したくなる。
 ラストの合唱シーンは戦慄を覚えるほどの迫力と感動に満ちていた。パリの街を俯瞰する、歓喜に満ちたこういう迫力はやはり劇場の大画面で堪能したいもの。1830年代パリの町並みがCGではなく壮大なセットであることも驚きだ。「なにこれ、いきなり歌うの」という非現実的なオープニングであったにもかかわらず、終わってみれば「最後は歌やね、やっぱり!」と音楽の力に圧倒される。この感動を味わい方はぜひ映画館でご覧あれ。




 以上は公的見解(笑)。ほんまのことを言うと……(以下自粛)

 
 で、自粛した部分を追記。

 
 試写会では退屈して寝ている人が何人もいたので、映画の入りが心配。あとは、台詞全部が歌ならオペラ並みに歌えないと聴いているのがつらいのに、役者たちの歌が下手、とか。それでも最後の民衆の歌はほんとうによかったです、あの場面で「ああ、映画館で見る醍醐味があるなぁ」と感動しました。

LES MISERABLES
158分、イギリス、2012
監督: トム・フーパー、製作: ティム・ビーヴァンほか、製作総指揮: ライザ・チェイシンほか、原作: ヴィクトル・ユゴー、アラン・ブーブリル、クロード=ミシェル・シェーンベルク、脚本: ウィリアム・ニコルソンほか、作曲: クロード=ミシェル・シェーンベルク
出演: ヒュー・ジャックマンラッセル・クロウアン・ハサウェイアマンダ・セイフライドエディ・レッドメイン、ヘレナ・ボナム=カーター、サシャ・バロン・コーエンサマンサ・バークス