吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ルート・アイリッシュ

 

f:id:ginyu:20140604211656j:plain

 ルート・アイリッシュとは、イラク戦争下で世界一危険と呼ばれる道を指す。ここを何度も往復した挙句に戦死したイギリス民兵の葬儀場面から物語は始まる。戦争を描くと異様に暗くなるケン・ローチ、今回も救いの無い展開で戦争の不条理をあぶりだしていく。

 イラク戦争では多くの民兵が働いていたといわれている。民間軍事会社の実態についてはかなり以前に新書を読んだのだが、そのタイトルがどうしても思い出せなくて困っている。最近の記憶喪失ぶりはただならぬものがあり、読んだ本の大半を忘れていることにため息が出る。

 それはともかく、この映画は、イラク戦争で亡くなった友人の死の真相を突き止めようとする男が、死んだ友人の恋人と心を交し合いながらも新たな悲劇へとひた走っていく様子をキリキリと絶望的に描いていく。登場人物たちがすべて素人だというだけあって、役者に華がないのが難点で、そのせいかどうかはわからないが、脚本に引力がない。ぐいぐいと引き込まれていかない。親友の恋人と恋仲になっていく様子もあまり説得力があるようには思えず、やはり映画は美男美女が登場しないといけないと改めて確認した次第。 

 友人の死の真相を探っていく過程もそれほどサスペンスフルでもなく、予想を覆されるような「真相」などは出てこない。むしろ、ラストに漂う絶望感こそがこの映画の真骨頂だろう。戦争はあらゆる人間を狂気に追い込む。思い込みと憎しみにかられた人間凶器が復讐を果たすとき、新たな悲劇が生まれる。こんな救いのない映画はあまり好きではない。若いころならこういうのを好んで観たような気がするが、もう最近ではこの手の映画を見ても好きになることはない。戦争は絶望しかもたらさない。日本を戦争できる国にしたい人はこの映画を見てからものを言ってほしい。(レンタルDVD)

ROUTE IRISH

109分、イギリス/フランス/ベルギー/イタリア/スペイン、2010

監督: ケン・ローチ、製作: レベッカ・オブライエン、脚本: ポール・ラヴァーティ、音楽: ジョージ・フェントン

出演: マーク・ウォーマック、アンドレア・ロウ、ジョン・ビショップ、トレヴァー・ウィリアムズ