怖いのか怖くないのか微妙な話。笑えるのか笑えないのかも微妙なところ。相変わらずジョーダン・ピール監督は常識を破っていく作風に熱心だ。
物語は、西部劇を思わせるようなロサンゼルス郊外のド田舎の牧場が舞台になっている。映画撮影用の馬を飼育している牧場では、オーナーである父が事故死した後を継いだ息子OJと娘エメラルドは経営がうまくいかず苦渋していた。そんなとき、謎の物体が空に浮かんでるらしいと気づいた兄妹は、これを撮影してバズり動画をアップすることによって一儲けしようと考える。果たしてこの謎の未確認物体の正体はなんなのか?! というSFホラー映画。
映画はテレビドラマを撮影中のスタジオで起きた惨劇から始まる。出演者がほぼ全員猿によって惨殺されるという事故が起きたのだ。これがこの映画の第一のチェックポイント。次は、このドラマの唯一の生存者、当時は小学生だったアジア系男子が成長して、今ではOJたちの牧場の近くに遊園地を経営しているというのが第二のポイント。
猿の目を見てはいけない、目が合ったら猿は襲ってくると言われているように、この不思議な未確認物体を見てはいけない。なんでいけないのかはわからないが、とにかく "Don't look up! "なのだ。でもやっぱり人間は好奇心の塊だから、不思議なものがあればついつい凝視してしまう。で、その結果は恐るべき惨劇が待っている。
「見てはいけない」、これがこの映画のなによりも大きなテーマだ。見るという行為の呪縛的な魅力に人は抗えない。だからわたしたちは映画という見世物に惹かれて毎日のように見てしまう。ところが、この映画では人間に見られた未確認物体が逆襲に出るのだ。動画を撮ろうとした者たちをこの謎の物体は許してくれないし、見世物にしようとした興行主も許されない。
本作の主人公兄妹は黒人で、惨劇が起きたテレビドラマの唯一の生存者がアジア系で、主人公たちの指示で動く若者は白人で、彼らに同調して協力するベテランカメラマンは白人。この配置が絶妙で、よくよく考えてこうなっているのか、単なる偶然なのかが判然としないところが面白い。映画も後半になってくるとだんだんいい加減な展開になり、アイデアが尽きたのか飽きたのか予算がつきたのか、とにかく謎の物体の正体が露わになって全部が見えたときには唖然として笑いそうになった。もうこうなったらこんなものの正体はどうでもいいのか、ピール監督!
この訳の分からなさがこの監督の真骨頂なのかもしれない。なんといっても監督デビュー作「ゲット・アウト」の衝撃がすごかったから、あとは迷走気味。しかしこの映画に関しては観客を退屈させない手腕を見せてくれている。
2022
NOPE
アメリカ Color 131分
監督:ジョーダン・ピール
製作:イアン・クーパー、ジョーダン・ピール
脚本:ジョーダン・ピール
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽:マイケル・エイブルズ
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレア、キース・デヴィッド