吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

日本沈没

 人身事故のせいで駅のホームで2時間10分待たされている間とかに見た映画だが、結局最後は見終わらないうちにamazon prime 無料配信期間が過ぎてしまった。残念無念であるが、最後の結末を見ていないのであった。

 しかしこの映画にかんしては結末よりもそこまでの過程が面白かったから十分見ごたえがあった。いまから50年前の日本の最新技術の情報がわかる。そして、当時の最新のプレゼン方法もわかって面白い(笑える)。

 しかし、阪神・淡路大震災東日本大震災を経験した今となっては、この映画に描かれていることが荒唐無稽とは思えない、むしろ表現が甘いぐらいだ。1970年代は大地震が起きたときの被害想定が大きな揺れによる建物損壊と津波だったとわかる。これまでわたしが生きているうちに起きている二つの大きな震災のときよりも爆発的な火災が想定されている点が実際とは違うと思うが、この映画では原発の爆発については思い至っていないようだ。まあ、もっともこのころ原発はまだ今よりはるかに少なかったからしょうがないかも。老人が「前の大震災のときは火を消さなかったから大きな災害になった。火を消したから大丈夫だ」と震えながら語っている様子が時代を感じさせる。そうか、あの頃はまだ1923年の関東大震災を覚えている老人たちがいくらでもいたのだ。

 当時の映画としてはかなり大掛かりな特撮を仕上げたと思える、すごい迫力である。この映画をわたしは映画館で見ていないが、もしも見ていたら恐ろしさに震えあがっただろう。いまでは「人と防災未来センター」で震度7の再現映像を見て恐ろしい状況を実感できるのだから、映像技術の進歩にも感嘆する。

 して、内閣はこの日本沈没の危機を前にして、日本国民をなんとか海外移住させようとしてオーストラリア、中国、ソ連といった広大な国土を持つ国家に移民を依頼する。これを以て「日本民族温存計画」と言ってもいいかもしれないが、日本国に住んでいるのは日本人だけではないということがわかっていたのかな。

 で、結末がわからないので仕方なくAmazonプライムで見られるテレビ版のドラマを超絶早回しで見ていたのだが、由美かおるの大根役者ぶりにはまいった。テレビ版は相当にゆっくりと話が進んでいるので、映画版とはまったく別物といってもいいほどだ。しかしなんでテレビ版では「逍遥の歌」を歌うのか?(笑) そうか、小松左京の個人的な懐メロか。テレビ版ではやたら京都の場面が多い。原作がそうなのかな。原作未読だからよくわからない。しかしこの時代によくこんな小説を書いたものだ。しかもパロディ小説『日本以外全部沈没』(筒井康隆)まで刊行されたのだから恐れ入る。わたしはパロディ小説のほうしか読んでいないのだが。こうなったら2006年の映画「日本沈没」を見てみたい!

 テレビ版のラストでは「日本は沈んだ。……しかし世界に散らばったニッポン民族は力づよく生きていくだろう」というナレーションで終わる。日本人のユダヤ人化の始まりか。しかしもはや日本列島は存在しないから父祖の地に帰ることもできない。これいいね、この映画。日本人とはなんぞやと考えさせるのによいわ。北方領土を返せとか尖閣諸島が、とか言ってる場合じゃない! 日本人が海外移民する時代なんだよ、再び。移民を極度に嫌がるこの国と政府に行ってやりたいわ、元に戻っただけだよって。(Amazonプライムビデオ)

日本沈没
1973
日本  Color  140分
監督:森谷司郎
製作:田中友幸、田中収
原作:小松左京
脚本:橋本忍
撮影:村井博、木村大作
音楽:佐藤勝
出演:藤岡弘 小野寺俊夫
いしだあゆみ 阿部玲子
小林桂樹 田所博士
滝田裕介 幸長助教
二谷英明 中田(科学技術庁
中丸忠雄 邦枝(内閣調査室)
村井国夫 片岡(防衛庁技官)
夏八木勲 結城
丹波哲郎 山本総理