2021年10月に鑑賞。
これはもう美術や演出が素晴らしいの一言である。しかし、三部作の第1作であり、作品全体を評価するのは難しい。物語の構造全体も見えていない。だからなのか、アカデミー賞では作品賞にノミネートはされているが、有力候補という下馬評は上がっていないようだ。映画としてのスケールの大きさから言っても文句なく受賞できるものだろうが、下手に三部作に分けたのがいかんかった? いや、サーガ全編がそろった暁には受賞必至ではないか。などと、まだ作られてもいない第2作と第3作に期待が高まるほどだ。
遠い未来の宇宙戦争という物語の構造は「スターウォーズ」と同じだが、コメディタッチの楽しい「スターウォーズ」(とりわけ第4話~6話)と違って、「砂の惑星」は文字通り砂だらけの乾いた惑星でのドロドロとした陰謀と殺戮が描かれる暗い物語だ。
デヴィッド・リンチ監督の過去作の失敗を乗り越えて満を持して製作されたという今作は、ヴィルヌーヴ監督が重厚な演出で魅せてくれる。ハンス・ジマーの音楽も「ブレードランナー2049」と曲調がまるで同じで、重低音が響き渡る。わたしは画面を見ながらたびたび「ブレードランナー2049」を脳内で召喚していた。この監督・作曲のコンビは健在である。砂漠の風景は「アラビアのロレンス」に匹敵するスケールと美しさであり、これぞ映画館で見る以外には鑑賞のしようがないという作品だ。
役者たちも豪華であり、美しき主人公シャラメ君とその上品な美人母レベッカ・ファーガソンを見ているだけでも恍惚とする。さらにシャラメ君の父を演じたオスカー・アイザックも渋くて格好いい。というわけで、主役一家は全員美男美女で性格も穏やかで品があり、美徳の塊のようである。もうストーリーなんかなくてもいいし、こういう美しい善人を見ているだけで幸せだ。大スクリーンで醜いものなど見たくない!
と言いながら、見終わって既に何か月も経っているので、詳細はほぼほぼ忘れている。しかし没入感のすばらしさ、まさに映画を見ているという至福感を味わわせてくれるところがヴィルヌーヴ監督の手腕だ、映画ファンを喜ばせることを心得ている。陰鬱で枯れた惑星の、すべての生と希望を拒絶するような雄大な砂の風景に心を沈めながら、それでも「未来が見える」という能力を持つ主人公が瞥見するその未来に観客は何かを託そうと次回作を夢見る。映画の中の未来へ向かう重い決意が観客に響き、観客自身が映画という物語装置そのものの構造に取り込まれていく思いがする。
ちょっとほめ過ぎたかもしれないが、もう一度大きなスクリーンで見てみたい。続編はもちろん見ます。
2020
DUNE: PART ONE
アメリカ Color 155分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
製作:ドゥニ・ヴィルヌーヴほか
原作:フランク・ハーバート
脚本:ジョン・スペイツ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、エリック・ロス
撮影:グレイグ・フレイザー
音楽:ハンス・ジマー
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、ゼンデイヤ、チャン・チェン、ハビエル・バルデム