昨年7月に見た映画なので、詳細は例のごとくほぼ全部忘れている。
聖職者が少年たちに長年性的虐待を行っていたことを告発する作品。これまでのフランソワ・オゾンの作風とまったく異なるため、従来のファンは面食らうかもしれない。それほど生真面目に撮られた社会派作品だ。つまり、社会派作品はこう撮るべしというお手本のような映画でもある。
で、その点はちょっと肩透かしをくらった感があるが、逆に、オゾン監督がこういう作品を撮れるんだと新鮮な感動もあった。本作は実話がもとになっていて、しかも映画製作の時点で裁判が現在進行形という事情があった。同じような映画にトム・マッカーシー監督「スポットライト 世紀のスクープ」があるため、二番煎じと言えなくもないが、被害者自らが立ち上がったという点が描かれているため、これはいっそう見る者の心に刺さる。
一生癒えない傷を負いながら信仰を捨てない主人公と、信仰を捨ててしまった者と、それぞれに価値観が異なる被害者たちの姿もあぶりだされる。何十年も前の被害を裁判に訴えることを決意して仲間を募っていく過程を丁寧に描いているのだが、その過程はそう簡単ではない。被害者たちの中でも意見の違いがあり、裁判に影響を与えそうな部分はオゾン監督が描写をかなり抑えて演出している。主演のメルヴィル・プポーが監督の演出に応えて地味ながらも見事に熱演していて、惹きこまれる。
この映画では告発されたプレナ神父にまったく罪の意識が見られず、驚くしかない。実際の裁判でも神父は全く罪を認めなかったそうだが、映画公開後に有罪判決が下されている。映画が社会を動かし世論を作り上げたという点でまぎれもない社会派作品である。被害者の立場に立った映画であり、告発された側からすれば理不尽にも見えたのであろう、プレナ神父は本作の公開差し止め訴訟を提訴していた。
性的被害には時効など存在しないということがよくわかる作品だ。そして、被害者もみなそれぞれに違う受け止め方をしていることがじっくりと描かれ、実に見ごたえのある作品である。しかしこれを観客が「作品」として消費してしまうことは慎みたい。被害者の悲しみに寄り添うことができるようにと、彼らの心が少しでも癒えるようにと、心から願う。
2019
GRACE A DIEU
フランス Color 137分
監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン
撮影:マニュエル・ダコッセ
音楽:エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
出演:メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、エリック・カラヴァカ