テイク・ディス・ワルツ
ミシェル・ウィリアムズが以前よりふっくらと若返って愛らしい。
「アウェイ・フロム・ハー」ほどの衝撃はなかったが、サラ・ポーリーの繊細な人間観察眼はここでも生きている。結婚5年にして早くも倦怠期を迎える若い夫婦の機微をじっくりと舐めるように捉える視線がリアリティを生む。倦怠期とはいえ深く愛し合う夫婦。しかし、その二人に小さなひび割れが入っていることに本人たちはまだ気づかない。妻マーゴは旅先で偶然出会った若いイケメンに心をときめかせるが、よもや彼が自分の家の向かいに住んでいるとは知らなかった。こんな偶然から始まる人妻の恋はだんだんと抑えがたいものへと発展する。
人妻の不倫ものというイメージから、ダイアン・レインの「運命の女」を思い出したが、つくづくあの「運命の女」は男目線の映画だったと思う。ダイアン・レインが艶かしく情事の場面が刺激的なのは、男が作っている映画だからだろう。それにひきかえこの「テイク・ディス・ワルツ」は、ゆっくりとお話が進み、そんなに簡単に人妻が男と肉体関係に落ちたりはしないのだ。むしろ、その過程の心理をじっくり描くことにより、女達誰もがもつであろう計算高さや可愛らしさが自然ににじみ出ている。
本作は何よりもミシェル・ウィリアムズの愛らしさを堪能する映画だ。若いカップルが傍目にはバカバカしく見えるじゃれ方をするあたりの描写には思わずうなった。夫ルーが電話しているときに横からちょっかいを出すマーゴの様子を描いた場面は秀逸。ほんとうにミシェルが少女のように可愛らしい。
マーゴが恋する青年と昼間にカフェバーに入り、テーブルの上のカクテルグラスを挟んで会話するシーンは「恋人たちの予感」のメグ・ライアンとビリー・クリスタルの食事風景を思い出す。あのシーンとは逆に、セクシャルな想像を掻き立てる状況説明をするのは男のほう。でも、メグ・ライアンと同じくミシェル・ウィリアムズ扮するマーゴは顔を赤らめ、うっとりと笑う。その姿がとても艶っぽくセクシーだ。
ラストへと至る時間の経過の描写にも驚いた。結局のところ、永遠に続く恋心も熱い思いも存在しない、というのがサラ・ポーリーの人生観か。「アウェイ・フロム・ハー」ですぐれた洞察力を見せつけた若き才能サラ・ポーリーだが、自分と同世代の若者を描くとなぜか凡庸になる。あまりに身近だからかえって「近視眼的」になるのだろうか。
TAKE THIS WALTZ
116分,カナダ、2011
製作・監督・脚本:サラ・ポーリー、製作:スーザン・キャヴァン、音楽:ジョナサン・ゴールドスミス
出演:ミシェル・ウィリアムズ、セス・ローゲン、ルーク・カービー