コレクターには男の子が多いと思うのは気のせいだろうか? 切手のコレクションや鉄道マニアの列車プレートコレクション、昆虫標本やらと集めたがるのはなぜか男の子に多い。もちろん女性のコレクターもいるだろうが、やはり男の習性なんでしょうか、これは?
ユダヤ系アメリカ人の若者ジョナサンはなんでも集めたがるコレクターだ。彼は家族にまつわるありとあらゆる瑣末なものまでビニル袋に入れて壁一面に貼り付けている。そして彼は、祖母がなくなる前に渡してくれた祖父の若い頃の写真を見てそこに写っている女性に興味を持つ。祖父はウクライナからアメリカに移住したのだが、祖父をアメリカに行かせてくれた女性がその「クリスティーネ」という人だったという。彼女のことを何も語らず祖母は死んだ。そしてジョナサンのルーツ探しの旅が始まる。
ここからは広大なウクライナをオンボロ車で旅する、老人とその孫の通訳と犬一匹とジョナサンという3人(+1)の愉快なロードムービー。軽快な演出、ユーモラスなディスコミュニケーションの会話の数々。とにかく笑える。ディスコミュニケーションの面白さというのは、単に言葉が通じないことから起きるすれ違いの可笑しさだけではなく、異文化に接することにより自分達の文化を相対化できることだろう。当たり前だと思っていることが実はそうではないと知ることは他者理解の第一歩だ。
ウクライナの反ユダヤ主義を表す台詞が次々に登場し、祖父のユダヤ嫌いの言葉を通訳するわけにいかない孫のアレックスは、適当にごまかす、その誤魔化し方がまた笑える。
ウクライナの旅は、過去との遭遇の旅だ。ルーツ探しのジョナサンだけではない。観客もまた放射性物質のマークと廃墟を見てチェルノブイリ原発事故を思い出す。そしてこの旅は、祖父にとっても悲しい過去との衝撃的遭遇をもたらすものであった。旅の初めに軽口を叩いていた祖父がいつしか寡黙になり、やがて深い思念に沈む。
映画のトーンは軽いものから徐々に重く、そして彼らが探す村にやっとの思いで到着したときからは重苦しいものとなる。広大なウクライナのひまわり畑は映画「ひまわり」の場面そのもの。戦争がもたらした悲劇をかの映画にも重ね合わせて思い出す。ユダヤの人々の言葉にできない苦しみが迫り、見る者の心を圧倒するだろう。
家族の思い出にまつわる品物をどんなガラクタでも集めようとする心性には、亡き人を悼む人それぞれの追悼のしかたが垣間見える。数年前、パレスチナ虐殺の被害者たちの遺品を展示する展示会「シャヒード、100の命」を見たが、単なる日用品を虐殺の記憶と怒りと鎮魂の祈りへと変える壁一面の展示品には圧倒された。この映画でも同じように息を呑む場面がある。
「ロード・オブ・ザ・リング」のフロド時代からずいぶん成長したイライジャ・ウッドだが、最後は「ロード~」を想起させる落ちが待っています。これはお奨めの一作。(レンタルDVD)
EVERYTHING IS ILLUMINATED
アメリカ、2005年、上映時間 105分
監督・脚本: リーヴ・シュレイバー、製作: マーク・タートルトーブほか、原作: ジョナサン・サフラン・フォア、音楽: ポール・カンテロン
出演: イライジャ・ウッド、ユージン・ハッツ、ボリス・レスキン、ラリッサ・ローレット