吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

彼女がその名を知らない鳥たち

 主人公が最悪に嫌な女で、その主人公を愛する男がまた品のない人間で、こんな女のどこがよくて献身しているのかと不思議になる。普通だったらあほらしくてこんな映画、見るのを放棄するようなものなのだが、ヒロインが夢見る元恋人との再会が美しく幻想的な場面なので思わず引き込まれていく。そうこうするうちに下司な男がさらに一人増えて、いよいよヒロインは頭が悪いのじゃないかとあきれてしまうのだが、最後の15分でアッと驚く逆転が起きて、ものすごく切なく終わった、という不思議な映画。

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 蒼井優阿部サダヲの熱演は特筆すべきで、特に二人の大阪弁が上手いのには驚いた。大阪の下町の雰囲気を醸し出す二人の会話や、品のない食事風景から、この二人がちゃんとした躾を受けてこなかったことが見て取れる。だからこそなのか、恐るべきクレーマーである主人公・十和子は知性のかけらも感じられず、見た目のいい男に惹かれていく隙だらけの女である。しかも8年前には文字通りぼろきれのように男に捨てられたというのに、その男を忘れられず、今また新たに不実な男と付き合い始めている。
 しかしその8年前に彼女を捨てた男が実は5年前から失踪しているということがわかった。突然十和子は同居人であるジンジを疑い始めた。ジンジが何か知っているのではないか? それまでダラダラと続いていた十和子の物語が俄然謎をはらみだし、サスペンスの様相を呈してくる。
 こんな悲しい物語だったのか。秘密の傷を隠してひっそりと生きる恋人たちの愚かな、そして「究極の愛」。ラストシーンで突然何かがこみ上げてきた。それは驚きか、虚しさか、切なさか、悲しみか、後悔か。「究極の愛」は皮肉にも、十和子に生涯癒せない傷を残すことだった。愛も深すぎると相手を殺す。忘れがたい作品となった一瞬である。(レンタルDVD)

123分,日本,2017
監督:白石和彌、原作:沼田まほかる、脚本:浅野妙子、音楽:大間々昂
出演:蒼井優阿部サダヲ松坂桃李村川絵梨赤堀雅秋竹野内豊