吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

笑う蛙

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 15年くらい前から見たい見たいと思い続けていた作品、とうとう見ることができた。予想と違ってコメディだったのには驚いたが、なかなかに軽快で、先が読めない面白さがある。ただし、場面は伊豆にある古い別荘から動かず、ほぼ舞台劇のようなコンパクトなつくり。狭い納戸に閉じこもっている主人公同様、映画も狭い人間関係を描いている。 
 巻頭、大塚寧々の着物の喪服姿を後ろからアップで捉えるカメラ。襟足に汗が流れるその姿は色っぽい。その法事は寧々が演じる涼子の父親の三回忌であることがわかるのだが、訳ありの一家は「親戚も呼べない」と愚痴る母親(雪村いずみ、もう64歳なのに若い色っぽい)のセリフから、涼子の夫が犯罪を犯したことがうっすらと読み取れる。
 次の場面では伊豆の旧家が写る。そこにこっそりと現れた中年男性一人。開いていた風呂場の窓から室内に侵入し、誰もいないはずのその家に涼子がいることを知って大いに驚く。。。。実は彼は涼子の夫であり、銀行の支店長を務めていたが、銀行の金を使い込んで逃亡していたのであった。涼子は離婚届を書くことを条件に一週間だけ夫の倉沢逸平を納戸に匿うこととなる。納戸に隠れて妻の行動を覗き見するという不思議な一週間が始まった。。。。


 笑う蛙とはどういう意味だろうかと不審に思っていたところ、なんということはなく意味のない蛙の姿が時折挟まれるということであった。人を食ったような蛙。蛙は人々の行状を嘲笑う超越者の位置を占めている。
 登場人物全員が俗世の価値観に捕らわれぎくしゃくしているかと思えば超然としていたり。そのあけすけな性的会話と裏腹に、妙に行儀がよい。大塚寧々のセリフ棒読み演技が最高に素晴らしい。いかにもお金持ちのお嬢様らしい鷹揚な態度、物静かで品のいいたたずまいを崩さない姿勢がよろしい。そしてこの娘にしてこの母ありの雪村いずみ演じる母親がなにかと常識外れな奥様なのもよろしい。
 夫は水商売の女性に入れあげて金を使い込み逃げたわけだが、自分がないがしろにしていた妻に恋人ができたことを知って嫉妬に狂う。捜査にやってきた刑事が妻に馴れ馴れしいのも許せない。なにかと妻涼子の行状に一喜一憂し、いちいち嫉妬する。そのうえ、自分はもはやなにも口出しするべき状況ではないくせにいまだに妻を「自分の女」「自分の所有物」と思っているフシがありありと分かって、不愉快極まりない。

 この映画は、男の身勝手と女の強欲を描いて実に小気味よい。涼子もひょうひょうとした態度を崩さないままに平気で嘘をついたり、なかなか頭のよい切れ者である。逃亡犯の夫を匿うという崖っぷちの中でしか見えない人間関係の本音も露わになり、最後まで楽しく面白く見ることができた。さして話題にならなかった作品かもしれないが、これは一見の価値あり。(U-NEXT)

100分、日本、2002
監督:平山秀幸、製作:岡本東郎、原作:藤田宜永『虜』、脚本:成島出
出演:長塚京三、大塚寧々、ミッキー・カーチス國村隼、きたろう、三田村周三、金久美子、南果歩雪村いづみ