吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ハンターキラー 潜航せよ

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 アメリカの原子力潜水艦が主役となる大作映画だから、てっきりハリウッドものと思い込んでいたら、イギリス映画だった。確かに役者はイギリス人やヨーロッパからの配役が多い。
 生涯決して乗りたくない乗り物の一つが潜水艦だが、どういうわけかわたしは潜水艦映画が大好き。名作「U・ボート」はディレクターズカット版のDVDも買ったし、繰り返し見ているお気に入りの映画。「眼下の敵」も昔に見た覚えがある。「レッド・オクトーバーを追え」は最高にスリリングでかつアレック・ボールドウィンの二枚目ぶりに惚れた。「クリムゾン・タイド」はデンゼル・ワシントンが超かっこよくてこれもよくできた作品だった。
 して、本作は。ダイハードな潜水艦もののぶっちぎり先頭を行くような映画に仕上がっております。真面目に観たら突っ込みどころ満載のあり得ない展開だらけなんだけれど、そのご都合よさも見事で、爽快である。
 さてストーリーは。アメリカの原潜アーカンソーがロシアのコラ半島沖で密かにロシア原潜を追尾する作戦行動を遂行中に、魚雷で撃沈されてしまう。これって領海侵犯やんか、ええのん、そんなことして。とわたしは心の中でつぶやいておりましたが、なんとちょうどそのころ、ロシア大統領がコラ半島に居て、しかもクーデターが起こり、国防大臣に監禁されてしまう。そんなこんなの大事件が起きていることを察知したアメリカ国防総省では、アメリカ大統領(女性ですよ!)の命令を得てロシア大統領を救出する作戦を実行することに決定。
 そのあり得ないほど困難な作戦に就くことになったのは、キラーハンターこと攻撃型原子力潜水艦アーカンソーの新任艦長ドネガンだった。米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)の精鋭4人が大統領を救出する決死隊となり、アーカンソー艦と連携して大統領を脱出させるという作戦だ。機雷原を行くアーカンソーはロシア領海内で無事に作戦を遂行できるのだろうか?!
 という、手に汗握る展開。ドネガン艦長はたたき上げの軍人で、ジェラルド・バトラーが演じているから、どう見ても死にそうにない。しかし、最初のうち、潜水艦アーカンソーの動きと、ネイビーシールズの関係がよくわからなくて(実はもともと無関係)、いったいこれはどういう作戦なんだ? どの系統から指示が出ているんだ?!と脳内混乱電波が出ていたわたくし、こういうことは軍事オタクならすぐに理解できるんだろうけれど、それがわからないのでちょっと置いてきぼりを食った気分になった。
 しかし、いろいろと考えている閑もなく話はどんどんズイズイ展開するので、とにかくいろんな疑問は飲み込んで画面を見つめる。
 沈没したロシア潜水艦には艦長以下数人の生存者がいて、アーカンソーに救出されるのである。このロシアの艦長がなんと、ミカエル・ニクヴィストであります。「ミレニアム」三部作の主演を張った彼ですよ。この映画の撮了後に肺がんで亡くなってしまった。本作でも素晴らしい演技を見せてくれていたので、残念極まりない。
 で、渋くてほとんどセリフのないミカエル・ニクヴィストの目ぢからが見どころの一つとなる。目線だけでアーカンソーのドネガン艦長と意思疎通する場面も多くて、なかなかに緊張感がある。
 まあしかし、最後の万事休すの場面をどう乗り切るのかと思ったら「ありえん~!!」と叫びそうになるものすごいことが起きまして、重傷のはずのロシア大統領も不死身であっという間に傷が治ってるし、細かいことは気にせずに見て楽しめる娯楽大作であります。わたしのように機械が好きな人間には潜水艦ものってほんと、痺れる。
 こういうアメリカ軍隊万歳映画は、国威発揚という効果と、好戦的な人間が映画で戦争を消費することによって実際の戦争を回避できるという効果があるのではないか。なんでイギリス映画界がアメリカをよいしょする映画を作るんだろう、そこだけは疑問が残ったけれど、そういう難しいことを考える映画でもないので。。。。。 
(2018)
HUNTER KILLER
122分
イギリス

監督:ドノヴァン・マーシュ
製作:ニール・H・モリッツほか
原作:ジョージ・ウォーレス
脚本:アーン・L・シュミット、ジェイミー・モス
撮影:トム・マライス
出演:ジェラルド・バトラーゲイリー・オールドマンコモン、リンダ・カーデリーニ、ミカエル・ニクヴィストトビー・スティーヴンス