わたしはラインハルト・ハイドリヒの暗殺事件「エンスラポイド作戦」についてはほぼ知らなかったので、すべてが新鮮な思いで見ていた。チェコは無血状態で簡単にドイツ軍に占領されたあと、冷酷無慈悲なハイドリヒによって支配されていた。
映画は冒頭で、イギリスやフランスがナチスドイツに譲歩した、いわゆるズデーテン回廊割譲の融和政策への簡単な字幕言及から始まる。つまり、ひとえにチェコ占領はイギリスなどの責任というわけだ。だからこそ、イギリス亡命政府はチャーチルの後押しでこの作戦を実行したのだろう。イギリスからチェコに送りこまれた暗殺部隊の勇敢かつ危機溢れる行動が描かれていく。
映画はほとんどモノクロ画面と区別がつかないくらいに暗く、彩度が低い。終始暗い画面でそのうえ物語も暗いので、陰々滅滅たる気分になる。
この映画で描かれたことは自己犠牲の美しさと極限の恐怖。ふつうのおばちゃんたちが暗殺実行部隊をわが身を顧みずに匿う状況はほんとうに感動的だ。
しかし、暗殺の報復がえげつなすぎる。ほんとうにこの暗殺は意味があったのか? そう問わざるを得なくなる。つまりは個人に対するテロは戦争を止める手立てにはならないということか。現在に翻って大いに考えさせられる話だ。(Amazonプライムビデオ)
2016
ANTHROPOID
チェコ / イギリス / フランス Color 120分監督:ショーン・エリス
製作:ショーン・エリスほか