吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

キングスマン:ファースト・エージェント

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 今年の2月に鑑賞したのだが、今頃アップ。

 いままでのキングズマンで一番面白かった。その理由は歴史劇であったこと。歴史といっても大昔ではなく第1次世界大戦が舞台になっている。キングズマン誕生の舞台裏が語られていて、その壮大な歴史が解き明かされるのが素晴らしかった。もちろんお笑いのツボはありとあらゆるところにあり、そして悲話もまた隠されていたということに涙をそそられる。

 キングスマン誕生以前の物語なのだから、当然にもここにはキングスマンは登場しない。コリン・ファースも出演していない。作風としてはずいぶんおとなしくなった感じはするが、その代わりに世界史を塗り替えるような大きなトリックの破天荒ぶりに感心したり笑わせられたりする。そう、「イングロリアス・バスターズ」のような偽史が語られていくのである。

 時は第1次世界大戦勃発前、ところは南アフリカ。植民地である南アに駐在するイギリス貴族が暗殺されそうになるが、本人は生き残り、若く美しい妻が犠牲となる。遺された幼い息子を立派に育てようと決意する貴族オックスフォード公(レイフ・ファインズ)。この場面でこれがボーア戦争だと気づいたあなたは世界史の点数が高かったに違いない。

 で、時が過ぎ、幼かった息子は執事や教育係の女性の手によって立派に育った。しかし世界はいよいよ不穏の空気を高める。この映画では、世界史上の重大事件がいろいろと登場し、そのすべてが秘密結社のしわざという陰謀史観に彩られている。

 なんといっても見どころはロシアの怪僧ラスプーチンとオックスフォード卿の一騎打ちである。ラスプーチンを演じているのがなんと、リス・エヴァンス。本当に怪僧に見えるから笑ってしまう。しかもこのラスプーチンの身体能力の高さが驚くばかりで、踊って踊って人殺し! チャイコフスキーの「序曲1812年」がこれほど効果的に使われた映画をわたしは知らない(笑)。

 この映画は実在の人物を巧妙に配していて、イギリス・ドイツ・ロシアの皇帝が従弟どうしであったことも知らなかったわたしにはとても面白かった。イギリスとドイツの王室が親戚というのは知っていたが(ヴィクトリア女王の孫)、ロシアもそうだったとは。どうりでこの3人は顔がよく似ている。映画では一人三役でトム・ホランダーが演じていて、これもお笑いどころ。このあたり、ヨーロッパの複雑な列強事情が垣間見えて、歴史のおさらいになった。

 で、この映画もやっぱりエンドクレジットの途中でボーナスカットがついている。このカットもおおっと思わせる仕掛けがあって見逃し厳禁。

2020
THE KING'S MAN
イギリス / アメリカ  Color  131分
監督:マシュー・ヴォーン
製作:マシュー・ヴォーンほか
原作:マーク・ミラー、デイヴ・ギボンズ
脚本:マシュー・ヴォーン、カール・ガイダシェク
撮影:ベン・デイヴィス
音楽:マシュー・マージェソン、ドミニク・ルイス
出演:レイフ・ファインズジェマ・アータートンリス・エヴァンスマシュー・グードトム・ホランダー、ハリス・ディキンソン、ダニエル・ブリュール