いまだに「論争」が続く「日本軍慰安婦問題」は捏造なのか事実なのか。疑問に思った日系アメリカ人の三十代の映像作家が肯定否定両派の人々にインタビューした記録がこのドキュメンタリーである。
その編集のスピーディなこと! 監督ミキ・デザキ本人によるナレーションの面白さもあって、2時間をまったく飽きさせることがない。
マイケル・ムーア監督の突撃インタビューのような先入観に満ちた作品ではなく、きちんとした検証を行なおうとするデザキの真摯さが見て取れるところがこの作品の良さだ。
歴史家の間では大日本帝国軍が設置した慰安所があったことは周知の事実であり、「あったのかなかったのか」などという論争すら無意味であるとわたしなどは思っていたのだが、「日本人はほとんどこんな問題嘘だって思ってますよね。誰も今ではそんな強制連行なんて信じてませんよね、やりっこないよね、と」と述べる公人が存在するなら、この映画も存在意味があるというもの。その杉田議員は先ごろ「子どもをつくらない人は生産性がない」という発言で物議をかもしたところだ。
この映画では、右派と左派の人々に次々とインタビューをし、従軍慰安婦の強制連行があったのかなかったのか、彼女たちは「性奴隷」だったのかそれとも「高給売春婦」だったのか、その数は何人なのかをめぐって論じていく。
インタビューは一人ずつ行われているから、その論者たちが平場で論争するわけではないが、あたかもアリーナで論争を繰り広げるかのようなスリルのある編集によって、「主戦場」というタイトルにふさわしい出来となっている。
歴史修正主義者が「米国こそがこの歴史戦の主戦場だ」という言い方をして、「韓国人がアメリカを巻き込んで歴史を捏造している。慰安婦は性奴隷ではない」と非難しているのを知ったデザキが、この問題にきちんと取り組もうと考え、それまでのユーチューバーとしての作品ではなく、長編ドキュメンタリーとして製作することを決意しのが本作である。その資金はクラウドファンディングによって調達された。
画面に映し出されるのは、論拠と資料を提示して自分たちの主張を繰り広げる人々。あるいは、「その問題は複雑なので言いたくない」と目を伏せるインタビュイー。これは、単なるインタビュー集ではなく、語る人々のしゃべり方、視線、表情を見せる映像作品として成立している。
さらには、実写フィルムや他媒体からの借用・引用をちりばめ、エンタメ作品としても耐えうる品質を保持している。
この映画は特定の結論をあらかじめ用意していないし、最後まで「両論併記」の姿勢を崩さない。とはいえ、どちらの言っていることが「正しい」のか、どちらの主張に心を寄せることが社会を生きやすくするのか、訴えかける力がある。ぜひその目で見てその耳で聞いて確かめてほしい。
2018
SHUSENJO: THE MAIN BATTLEGROUND OF THE COMFORT WOMEN ISSUE122分
アメリカ
監督:ミキ・デザキ脚本:ミキ・デザキ撮影:ミキ・デザキ編集:ミキ・デザキ