ある家族の危機を静かに、そして緊迫感に満ちた演出で描く。
ポール・ダノの第1回監督作ということで注目を浴びている。確かに初監督作とは思えない出来の良さだ。主人公は14歳の少年ジョー。1960年のカナダ国境に近いモンタナ州の田舎町が舞台だ。ジョーの目から見た両親の姿が描かれる。
ジョーの父親ジェリーはふとしたことで職場を解雇され、失業者となる。なんでもいいからとにかく再就職してほしいと言う妻ジャネットの言葉に耳を貸さずにふてくされているジェリーは、あれこれと言い訳を見つけては新しい仕事に就こうとしない。そのくせ、「私が働きに出るわ」と妻ジャネットに言われると、これまた男の沽券にかかわると思うのか、不機嫌になる。
それまでは仲睦まじかったまだ三十代の若き夫婦が、あっという間に不仲になっていく。そしてジェリーは、山火事が続くモンタナの山の中に「消防士の仕事をするんだ。人に必要とされる仕事がしたい」と言って妻の反対を押し切って行ってしまった。山火事を消す仕事の時給は低い。しかも何か月も山に入ったまま自宅にも戻れない。それでもスーパーのレジ打ちよりも「男らしい」仕事と思ったのか、ジェリーは家を出て行ってしまった。
両親が諍いを始め、母ジャネットがあからさまな怒りを見せて自分の夫への悪態をつく姿を、息子のジョーは不安な目で見つめている。臆病な小鳥のような眼をしたジョーを演じたエド・オクセンボールドが驚くほどポール・ダノに似ている。まるで監督と写し絵のようなエド・オクセンボールドの演技が素晴らしい。
父の不在中に母が不倫に走る様子を見つめ、衝撃を受けた後は冷めた表情になっていくジョーが大人へと成長する姿を、まなざしの演技で見せたところがエド・オクセンボールドの才能だ。そしてその才能を引き出したポール・ダノの演出の手腕は見事。
ストーリー自体はなんということもない家庭内のいざこざの話だけだけれど、最後まで緊張感がとぎれず、緩急のテンポの付け方もうまい。大人たちこそがわがままで自意識だけが大きな図体のでかい子どもであり、その姿を直視していた少年ジョーこそが自立へ向けて静かに自分を磨いていた。
この一家はこの先どうなるのか、どうとでも解釈できるラストシーンも憎い。ポール・ダノ、次回作も楽しみだ。(レンタルDVD)