前編を見終わったとき、後編が待ちきれないほど面白いと思った。その興奮に比べると後編は動きが鈍い。
学校内で起きた、生徒の転落死は自殺か事故か、はたまた殺人か。真相を求めて生徒たちが「学校裁判」を始めるという前代未聞の物語。
雪のクリスマスイブに生徒が学校の屋上から生徒が転落して死ぬという衝撃的な場面から始まる本作にはただならぬ雰囲気が漂う。真相究明のために動き始めるのが警察官の娘というのもわかりやすい設定だ。人物の配置はそれぞれに文句なしに説得力がある。というか、分かりやすすぎる。やくざの息子はぐれて暴力を働く非行少年で、米屋の娘はモリモリ食べて思い切り太り、子を溺愛するシングルマザーの娘は思春期の少女らしい外見の悩みに苦しんで母を責める。進学校の生徒は見るからに賢そうで、裁判長役をする生徒は学年一の秀才。それぞれがそれぞれらしい役割に就く。そして役割通りに演じていくわけだが、そこに意外性がからんだり、どちらに転ぶかわからない面白さがある。
さらに、この作品は学校で起きた事件を描くだけではなく、大人の観客にもじゅうぶん共感できる普遍的な倫理性を内包している。学校でのイジメを見て見ぬ振りをした正義感溢れる少女が自分を責める。誰もが思春期のころまでに経験した痛さをここでリアルに再現されていて、なにやら胸がざわめく。顔のにきびを極端に気にする樹理という少女のことも他人事とは思えず(別にニキビに悩んだわけではないが)、懐かしい思いがこみ上げてくる。
子どもたちが事件に真剣に向き合っているときに愚かな小細工をする母親がいたり、ハイエナのようなマスコミ人間がいたりするのがまた大人の醜さを描いていて典型的な配置。
主役の藤野涼子は役名の藤野涼子をそのまま芸名にしたという力の入れよう。少々固い演技だけれど、それが演出の狙いかもしれない。いかにも生真面目で聡明な中学生を演じて清楚なイメージを振りまく。
原作の雰囲気を生かしてあるのか、それとも監督の演出なのか、夫の暴力によって額から血を流しながら若い女(市川実和子)がズルズルと玄関に入っていく場面なんてウメズカズオの「へび女」そのもの! あー、怖かった。こういう場面も含めて、前編があまりにも盛り上がったので、後編は張り巡らせた伏線を回収していくだけに終始した感もあり、トーンダウンが否めない。
前後編を見終わって、導入部とエピローグに「現在の涼子」を登場させたのは余計だったと思う。芝居が浮いているのだ。妙に作り事めいていて、演出の失敗と思えるのだが。原作どおりなんだろうか、ここは。
前後編を分ける必要があったのかどうか疑問だが、二本分の興行収入を得られたのはめでたし、か。
(2015)
上映時間 121分 (前編)
製作国 日本
監督: 成島出
原作: 宮部みゆき
脚本: 真辺克彦
音楽: 安川午朗
出演: 藤野涼子、 板垣瑞生、 石井杏奈、 清水尋也、 富田望生、 前田航基、西畑澪花、佐々木蔵之介、夏川結衣、 永作博美、黒木華、田畑智子、市川実和子、嶋田久作、
余貴美子、松重豊、小日向文世、尾野真千子