吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

薄氷の殺人

f:id:ginyu:20181023234118p:plain

 ファム・ファタールもの。「薄氷の殺人」とはうまく題名をつけたもので、舞台は雪が積もる中国の地方都市、季節は冬。主人公たちは野外スケート場でたどたどしい足取りで滑走している。殺人はそのスケート靴にからんで起きる。
 巻頭、ほとんどセリフがなくしかも淡々と物語が進むため、展開がよく理解できなかった。そのうえ人物の顔の見分けもよくわからない。やむなくこの最初の場面は繰り返し三回も見る羽目になった。酔っぱらっていなければもう少しちゃんと見られたのかもしれない、と反省。
 画面作りにはかなり凝っていて、カメラワークも斬新だ。神の目線のカメラの動きが突然登場人物の主観に変わり、その直後にまた神の目線に変わる。しかもカメラをUターンでパンさせながら撮影されている。それは雪の道路でのカメラの動きで、ここは真っ白い道路に足跡やタイヤ跡が残り、泥酔した主人公の黒い姿が情けなく映る、印象的な場面だ。実はこの場面では、巻頭の1999年から2004年へと時制がジャンプしている。
 また、フィルムノワールのような暗い場面も多くて、独特のけだるい雰囲気を持っている。ストーリーは説明的には進まず、様々な「雑音」とも呼ぶべき奇妙なシーンが挟まりながら徐々に展開する。まともに考えたら絶対に説明がつかないと思えるような箇所が随所にあり、たとえば、警官を辞めたはずの男がいつまでも捜査に介入するというおかしなことを誰も不思議に思わないのが不思議だ。
 犯罪の中心にいるのは若く美しい女。その女に惹かれていく主人公はいつまでも彼女を追いかける。なんとかして彼女を救いたい。守りたい。その気持ちから彼はなんでもする。犯罪にだって手を染める。けれど、この愛が成就するなんてとても考えられない。堕ちていく二人には何が待っているのだろう。
 バラバラ殺人、暴力、薄汚い中年男、といった華やかさがみじんもない映画なので、こういう作品が好きな人は猛烈に好きだが、たいていの人には受けない。大いに人を選ぶ映画なので、選ばれたかどうかを確かめたい方にはぜひお薦めしたい。ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。(U-NEXT)

白日焔火
109分、中国/香港、2014
監督:ディアオ・イーナン、撮影:トン・ジンソン、音楽:ウェン・ジー
出演:リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエビン、ワン・ジンチュン