吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

天使のいる図書館

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 町興し映画にありがちな安易で残念な作品かと思ったけれど、どうしてどうして、図書館員がちゃんと仕事をしているところが描かれる、よい作品だ。でも主人公は変な図書館員で、あんなのは採用試験の面接で落ちるでしょとか、あんな司書がいるわけないでしょとか、なんで新人をレファレンスカウンターに座らせるのよ、ありえーんとか脳内ツッコミをしながら見ておりました。

 舞台は奈良県葛城地域にあるとある公共図書館。実際の図書館を使ってロケしているので、地元の人にはああ、あそこね、とわかるだろう。空撮で葛城地域の田園風景を映したあと、カメラはぐっと寄りながら主人公さくらが自転車で出勤する様子を映し出す。田んぼの真ん中をヘルメットをかぶって全力ダッシュで自転車をこいでいる様子はほほえましく、この主人公がとっても元気な若者であることがわかる。で、彼女はなんとレファレンスカウンターに座っているのである。確かに知識は豊富なのでレファレンサーの潜在能力は高そうだけれど、いかんせんコミュニケーションがまったくなっていない。おまけに大きな眼鏡をかけて髪を無造作に束ねているところも図書館員のステレオタイプで、思わず失笑。まあこれはコメディなんだからこれぐらいはしゃあないか。

 などと言っているうちに、一人の上品な老婦人が沈んだ表情で閲覧室のソファに腰かけている様子が目に留まる。これが香川京子なのよね。すっかり年を取ったけれど、上品なおばあさんです。おばあさんが気になるさくらちゃんは、余計なお世話を発揮して香川京子おばあちゃんが持っていた写真を見て「この場所を教えてあげます」と勝手にレファレンス。おまけに図書館外におばあちゃんを連れ出して案内してしまう。館長らしき女性はあきれた顔でその様子を見ていたけれど、特に止めるでもない。このあたりがいい図書館ですねー。既存のやり方にこだわらない。前例なんかどうでもいい。レファレンス担当が勝手に席を外して利用者を連れて館外レファレンスをしても上司は叱らない。いいんじゃなーい。

 とまあ、ここまでは図書館員のステレオタイプのおかしさと、そのステレオタイプを大胆にもはみ出す主人公さくらの変人行動で笑わせる話かと思わせておいて、実はこれ、団塊世代のロマンスものだったんですねー。この意外な展開にはびっくり。 

 主人公以外は実にまっとうな図書館員ばかりで、特に館長だか現場主任だかのベテラン女性がとてもよろしい。客扱いもわきまえていて、部下もきちんと指導する。汚れた本を丁寧に洗浄している場面にも心を打たれるが、修復方法はあれでよいのか? スプレーしているのはエタノールなのかなぁ。などと図書館員としましては、細部が気になってしょうがなかった。
 このおばあさんとの交流を通してさくらが成長していくというビルディングスロマンの典型物語なんだけれど、ステレオタイプのお話が嫌味じゃなくて爽やかなのは、図書館員の仕事や本の大切さがきちんと描かれていたことと、役者の魅力によるんだろう。小芝風花ちゃん、とってもかわいいです。森本レオさんも素敵な声は相変わらず。

 「人生のラストシーンはあの人と一緒にいたい。二人でただ笑いながらススキの野原を歩きたい」。そういう香川京子おばあちゃんのセリフには思わず涙。想いは50年経っても変わらないのだ。

 映画を観終わった後、わたくしが「夜明けの歌」を一人高らかに熱唱したことは言うまでもない。実に効果的に使われています。名曲ですよ!

108分、日本、2017
監督:ウエダアツシ、製作:露崎晋ほか、原案:山国秀幸、脚本:狗飼恭子、撮影:松井宏樹
出演:小芝風花横浜流星森永悠希、飯島順子、籠谷さくら内場勝則森本レオ
香川京子