吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ああ荒野 前篇・後篇

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 ボクサーの映画って本当は好きじゃないのだ。好きじゃないのに、なぜかうっかり映画を観てしまって、「ロッキー」なんて感動してしまって、ついつい続編もそのまた続編も見てしまうという変なやつがわたし。嫌よ嫌よも好きのうち?

 で、またしてもうっかり見てしまったよ、ボクサーの映画。で、ついつい感動してしまったわ。これは前後編300分を超える長い話で、そのうえそれをiPadで通勤電車の中で見るという小刻み鑑賞だからえらく時間がかかってしまったが、それでも感動したから、もしもこれを映画館で見ていたら本格的に感動したんじゃないかという恐れもあるぐらい。

 何がよかったのかと反芻しているが、やっぱり菅田将暉の迫力。そしてヤン・イクチュンの哀しい瞳。二人とも熱演でどちらにも演技賞をあげてほしいと思っていたらやっぱり菅田将暉は本作で日本アカデミー賞主演男優賞を獲った。
 母子家庭の不良少年と父親から虐待されている吃音の在日韓国人という二人が出会い、ボクシングを通じて兄弟のように友情を育んでいく。その過程がじっくり描かれていて、さらにこの二人の因縁話が(ちょっとできすぎ)盛り上がっていくと、運命の決戦を迎える。こういうストーリーの山場づくりが実にうまい。

 暴力的な人間がボクシングに出会うことによって暴発する力を努力へと変換し、スポーツに賭けていく様子は清々しい。復讐心や金や名誉が欲しいという単純な動機でもいい、トレーニングに励む姿には感動する。菅田将暉が本当に筋肉をつけていき、ヤン・イクチュンが減量していく様子が目を見張る。

 気に入らないのは学生団体「自殺研究会」、これ必要なトピックかな? 時代を2021年のテロが吹き荒れる時代に設定していることと関連があるのかもしれないがドローン自殺とかちょっとびっくりの展開にはやりすぎと感じた。

 ところで本作は図書館員が登場する、図書館映画でもある。大事な役柄ではないけれど、健二が助ける妊婦は図書館員である。(Amazonプライムビデオ) 

(2017)
157分、147分
日本

監督:岸善幸
製作:河村光庸ほか
作:寺山修司あゝ、荒野』(角川文庫刊)
脚本:港岳彦、
岸善幸
撮影:夏海光造
音楽:岩代太郎
出演:菅田将暉ヤン・イクチュン、木下あかり、モロ師岡高橋和也今野杏南山田裕貴河井青葉、でんでん、木村多江ユースケ・サンタマリア