吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

パレードへようこそ

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 昨日エル・ライブラリーで開催した「映画を語る読書会」(熊沢誠著『私の労働研究』第6章を読む・映画を見る)でも絶賛の嵐だった作品。とても素直に作られた感動作。わたしがずっと追いかけてきた労働組合旗の謎を解くヒントが見つかったので大いに興奮した。イギリス映画らしい、連帯の素晴しさを描くユーモア溢れる作品だ。

 1984年3月から1年間続いたイギリス炭鉱ストを支援したゲイ・レズビアン活動家たちの物語。実話に基づく。長期に及ぶストライキによって炭鉱労働者たちは飢えに瀕していた。同性愛者の権利を求めてデモをしていたマークたち活動家は炭鉱労働者のためにのカンパを集めることを思いつく。「サッチャーと警察が炭鉱夫の敵だ。おれたちゲイと同じだ!」と。労組にカンパ届けようと思うが、「LGSM 炭鉱夫を支援するレズビアンとゲイの会」と名乗ると電話を切られてしまう。やっと支援を受け入れてくれたのは、なにかと勘違いしたおばあさんがうっかり電話で"yes,yes"と答えたウェールズの炭鉱労働組合だった。マークたちは喜び勇んでウェールズまでドライブするが、、、、

 

 巻頭は労働歌 " Solidarity forever" の合唱で始まり、途中は80年代ダンスミュージックで盛り上げ、クライマックスの「パンとバラ」の独唱と合唱で鳥肌が立つほどの感動を与え、最後は映画「ブラス!」を彷彿させるブラスバンドが登場する。実に音楽が効果的に使われていて、下手なミュージカルよりも面白い。

 1年に及ぶストの末期に、全国炭鉱労働組合のジョン・バロウズが来日している。日本では労働問題の研究者を中心にカンパが集められ、84年の年末に100万円余りがイギリスに送られた。85年2月に来日したバロウズ資金集めのために全国行脚をしたらしい。結果、600万円ほどを集金して帰国したという(松尾高夫「書評と紹介『イギリスの炭鉱争議』、『賃金と社会保障』No.913)。大阪では2月16日に社会主義理論政策センターが緊急集会を開催しており、その報告が同センターの機関誌に掲載されている(『社会主義と労働運動』95号、1985.5)。大阪の集会で通訳をしたのが山田潤さん。シンポジウムのパネリストの一人が熊沢誠さん。お二人とも今回の読書会に参加してくださったのも余韻が深まるような感慨があった。

 またこの炭鉱争議の時期にたまたまイギリスに滞在していた労働問題研究者の早川征一郎さんが書かれた『イギリスの炭鉱争議』(御茶の水書房、2010年)にも経過が詳しく描かれている。争議のその後についても言及があるので大いに参考になる。しかしこれらの記録を見ても、ゲイ・レズビアンが炭労と連帯した話は一切出てこない。今頃になってこの話題が映画になることの意味を考えると実に感慨深い。「イミテーションゲーム」で、天才数学者アラン・チューリングは同性愛の罪を問われて逮捕され、「矯正」されている。ついには自殺へと追い込まれる彼の悲劇が、サッチャー政権のころまで尾を引いていたのだ。偏見と闘うゲイの人々に「保守的な」炭鉱労働者たちがついに連帯したラストシーンでは観客は感動を禁じ得ないだろう。

 わたしは日本の古い労働組合旗のデザインの源泉がどこなのかがずっと気になっていて、5月20日のセミナーに向けて調べていたところだったので、「今から百年ぐらい前の労働組合旗が事務所にあるんだ。手を結び合っているデザインだ」というセリフが二度も出てきたので思わず身を乗り出した。その旗を見たい! と期待したのに最後まで登場しない。がっかりしていたらなんと、最後の最後に旗が登場。実に感動的な場面であった。

 大変力強く、勇気を与えられるラストシーンであったが、現実には炭鉱労働者たちは敗北したし、経営側(石炭庁)となんの協定も結ばなかった。完全な敗北といえる。しかし、ストを解除してもなお炭鉱労働組合は「闘争継続」を高らかに謳っていた。

 イメルダ・スタウントン演じる委員長ヘフィーナのキャラクターが素晴らしい。明るく柔軟な発想、底抜けに楽しい人柄。この人物がいれば炭鉱ストも頑張れる、と実感させるものがある。来日したジョン・バロウズの発言にもあったが、この闘争を通じて女たちが生き生きとし、実に力強く成長したという。もはや男たちだけでは決して勝てない状況にあったのだ。飾り物や「銃後の守り」ではなく女たちが先頭に立つ。そんな状況がこの映画でもしっかり描かれていてすがすがしかった。いっぽう、偏見に凝り固まる女ももちろん存在する。映画は、女が先鋭的で男が保守的、などという単純なジェンダー論には落としていない。

 それにしても主役(とわたしが認定)のマーク(ベン・シュネッツァー)が美しかった。彼の顔を見ているだけで幸せな気持ちになれる2時間であった(笑)。

PRIDE

121分、2014、イギリス

監督: マシュー・ウォーチャス、脚本: スティーヴン・ベレスフォード、音楽: クリストファー・ナイチンゲイル

出演: ビル・ナイイメルダ・スタウントンドミニク・ウェストパディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイ、ジョセフ・ギルガン、アンドリュー・スコット、ベン・シュネッツァー