吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

インソムニア

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 「メメント」の監督だからと期待が大きすぎた。おどろどろしい予告編に踊らされた。じわじわと押し寄せる恐怖に震え上がるサイコ・サスペンスだと思ったのが間違いだった。「6日間眠れないほどのあまりにも異常な事件」ってキャッチ・コピーは大嘘。「セブン」と比べてみてよ。どこが猟奇殺人なの? 別に猟奇殺人が見たいわけではないけど、これって要するにアル・パチーノが眠たそうな演技を見せるだけの映画じゃないの。

 確かにアル・パチーノの演技は見事だった。見ているうちにこっちが眠くなってくる。これは作品がつまらないからなのか、パチーノの演技が巧すぎてつられていくのかどっちだろう、と悩むほどに。

 ロビン・ウィリアムズに悪役をやらせたっていうのも、意表をついてよかったかもしれない。悪人にしてはあまりにもおどおどと小心過ぎる風情が、ロビン・ウィリアムズだと自然ににじみ出る。また、そのごく普通の小心者だったはずの人間に潜む暗い悪意がだんだん露わになってくるところなんて、ちょっとゾッとした。

 インソムニア不眠症>の恐怖をもっと締め上げるように描いてくれないと、ちっともゾクゾクしない。車を運転中に眠気に襲われるシーンも、あれじゃ単なる居眠り運転だ。殺人事件の謎解きも中途半端だし。

 ただ、最後に新たな謎が加わって終わったというのはなかなかうならせるものがあったが。不眠が生む幻覚が、真実を迷路の中へ叩き落していくその最後の科白だけが見せ場だった。殺人事件の謎を解くサスペンスではなく、良心の呵責に苛まれる人間の懊悩を描いた作品だ。
 最初からこういう映画だとわかっていて見に行ったのなら、それなりに楽しめたと思う。違うものを期待したわたしが馬鹿でした。眠い目をこすって、わざわざレイトショーを見に行ったのになぁ。
 帰りの車の中で夫がずっと文句を言い続けたのが余計に疲れる。ダンナさま、次は「サイン」を見に行こうね。

Insomnia
製作年:2002
上映時間: 119分
製作国:アメリカ合衆国
監督: クリストファー・ノーラン
製作: ブロデリック・ジョンソンほか
製作総指揮: ジョージ・クルーニーほか
脚本: ヒラリー・セイツ
撮影: ウォーリー・フィスター
音楽: デヴィッド・ジュリアン
出演: アル・パチーノ
    ロビン・ウィリアムズ
    ヒラリー・スワンク
    モーラ・ティアニー
    マーティン・ドノヴァン
    ニッキー・カット