吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

アイリッシュマン

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 ヤクザ映画は嫌いなのだが、これはネットフリックス製作の配信映画にもかかわらずアカデミー賞に10部門ぐらいノミネートされたので、記憶に残っていた。

 で、その結果。前半はかなり爆睡してしまったのだが、その原因は酔っぱらって観ていたからであり、素面の時に後半を続けてみたら、スコセッシ監督の演出力に感動した、という作品。3時間半以上あるのだから、じっくりと描かれているのが何よりだが、とにかく主人公が人を殺しまくるし殴るし、そんなに殴っても蹴っても踏みつけても殺してもなんで逮捕されないの?! と不思議極まりなかったのだが、どうやら実際にはなんども逮捕されているし、最後は老いてから長らく懲役刑に服していたようで、刑務所がほぼ老人ホーム化しているのには笑った。

 何よりも驚いたのがマフィアと労働組合が同列に描かれていたこと。というか、労組とマフィアが一体化していたこと。これほんまかいなと疑ったのだが、どうやらほぼ真実らしい。いや、いまだに疑っている部分はある。

 経営者たちがマフィアを雇って暴力的に労組に対峙したのがきっかけで、労組側も対抗手段として暴力に訴えるようになり、お互いにヤクザを雇って抗争するようになった。日本でも同じで、港湾労組はヤクザの荷役会社と対峙するために自らも武装して闘ったわけだし、関西生コンの組合員たちもしかり。そもそも権力や財力を持つ者たちが弱者を迫害するために暴力を行使したのが始まりなのだ。

 しかし、この映画の時代である1960年代にはすでに労組幹部はマフィアとどっぷり手を組んでいて、もはやどうしようもない状態であった。いまだに真相が明らかになっていない「ジミー・ホッファー失踪事件」に至る経過を描いたのがこの映画である。ジミー(アル・パチーノ)は全米トラック運転手組合のカリスマ委員長である。主人公はその右腕として最も信頼されたフランク・シーラン(ロバート・デニーロ)で、本作は年老いて余命いくばくもないフランクの回想によって物語が紡がれていく。

 登場人物が多すぎるのが難点だが、新たな人物が登場するたびに字幕が出て、「●●年に額に三発の弾丸を受けて死亡」という説明が出るのが面白い。その人物がろくでもない死に方をしたことが観客に強烈に印象付けられる。こういった説明部分を含めて演出がなかなか凝っている。とりわけ感動したのは、後半の、いよいよジミー・ホッファに危険が迫りくる場面でゆっくりとしたテンポで物語が進むところだ。このじらすような「溜め」の演出がたまらない。家族ぐるみのつきあいで血を分けた兄弟のように仲の良いジミー・ホッファとフランク・シーランだが、人の言うことをきかないジミーにフランクの苦悩が募る。さてどうなるのか、どうするのか。緊迫感が高まる。

 それにしても豪華な俳優陣には溜息が出る。そのうえ、イタリア系のロバート・デニーロアイリッシュの役で、アル・パチーノがイタリア系移民のことを「イタ公」と差別するのはなにかの冗談か? と思わず苦笑。その他にも重要な役者たちをイタリア系で固めているのに「アイリッシュマン」というのも面白い。アメリカ労働運動の裏面史を改めてちゃんと勉強したいと思った。(Netflix

2019
THE IRISHMAN
アメリカ  209分
監督:マーティン・スコセッシ
製作:マーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロほか
原作:チャールズ・ブラント
脚本:スティーヴン・ザイリアン
撮影:ロドリゴ・プリエト
音楽:ロビー・ロバートソン
出演:ロバート・デ・ニーロアル・パチーノジョー・ペシ、レイ・ロマノ、
アンナ・パキンハーヴェイ・カイテル