吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

13デイズ

 映画の冒頭、ケヴィン・コスナー演じる補佐官がジャクリーンとパーティの打ち合わせをする場面で、駄洒落が出るんだけど、戸田奈津子先生どう訳すかなと期待したら、訳してなかった(^^;)。他にもジョークはあるんだろうけど、私の英語力ではそこしかわからなかった。

アメリカ合衆国の対中南米政策史を研究する杉山茂氏のコメントを追記します。
 …この映画の最大の問題点は、現代企画室の太田昌国さんが指摘しているように、当事者であるキューバが完全に欠落していることでしょう、これはさらに革命に至る上で最も重要であったFDR政権からアイゼンハウワー政権に至る米国とバチスタ政権との関係、さらには米西戦争以来の米国-キューバ関係をも、視聴者から隠す結果を生みます.このような映画は、Docu filmといわれるもので、米国映画界で人気のあるジャンルですが、Starkenの議論に従えば、この種の映画は、米国公衆の歴史意識を形成する上で最も影響力があります(3/1、MLに流れたコメントより)
 ヴァージンシネマ泉北で映画を観ました。今日はタブレットも買ったし、これからイラストを描いたり、自作の壁紙を作ったりして遊ぼっと。
 さて、本日の映画、「13days」は結末のわかっている政治ドラマ。誰もが結末を知っているのに、それを最後まで飽きさせずに如何に観せるかが脚本と監督の腕の見せ所よね。で、これは結構成功していると言いたい。徹頭徹尾、アメリカ帝国主義の論理で描かれているから実にわかりやすいし。アメリカ人が観たら泣いて喜ぶんだろうなあ。ケネディ大統領がものすごくかっこいいし。ケネディ兄弟がかっこよすぎるんじゃない? 愛しのケビン様演じる大統領補佐官がかっこいいのは当然として…
 黒いスパイ機U2型機のことは小学生の頃に読んだ本の中で知っていたし、ソ連領空を侵犯して撃墜されたことも知っていたけど、この映画を見て初めて知ったキューバ危機の裏話は数多くあった。海上封鎖の前線ではあれほど緊張していたということや、実際に撃墜された米軍機があって戦死者が出ていたこと、米軍艦が発砲したこと、ソ連との裏取引など、細かい話は全部初めて知った。
 軍人が好戦的なのは当然よね。戦争したがらない軍人なんて、本を読まない図書館司書、金を貸さない銀行員と一緒だもんね。だから、戦争したくてうずうずしている軍部を平和主義者のケネディが押さえた、っていう美談はまあ、本当の話だろうけど、どっちにしても米帝の利益しか考えていない(当たり前か^^;)ところは同じ穴の狢と言いたい。
 「キューバ危機」って、アメリカにとっての危機のように言われているけど、まさにキューバにとっての危機だったとしみじみ思う。独裁政権をゲリラ戦で倒したカストロが国交を求めたのに対して、ケネディは経済封鎖で応えたのだから、キューバソ連に走らせたのはアメリカ合衆国に他ならない。ケネディ死後もCIAはカストロ政権転覆のために様々な工作を行ってきたことを認めたし、なんとその中にはカストロの髯を脱毛するという笑い話のような作戦もあったのだから。
 この映画を見てつくづく感じるのは、アメリカは中米のことを自分ちの中庭にしか思っていないということ。超低空飛行で(もちろん領空侵犯)キューバのミサイル基地の写真を撮るのは当たり前と思っているし、「キューバソ連のミサイルが!」といってあわてたり怒ったりするなんてそもそも笑止千万だね! 自分たちだって沖縄に基地を持ってるくせに! 北朝鮮や中国にとってはすごい危機だよ。
  カトリックアイリッシュだったケネディ兄弟がアメリカ東部エスタブリッシュメントのなかでさまざまな軋轢を感じていたであろうことは映画のちょっとしたシーン、ちょっとしたセリフにかいま見られる。宗教に無縁な日本人が観たら全然実感が湧かないけれど、兄弟と大統領補佐官ケヴィン・コスナー)が日曜にカトリック教会に通う場面は、政府中枢の中で、彼らが孤立していたことを示すシーンなのだろう。
 ラスト、談笑するケネディ兄弟の後ろ姿が、その後の二人の暗殺という未来を想起させ、悲劇感をそそっていた。ケヴィン・コスナー主演の「JFK」(オリバー・リード監督、1991年)へと繋がる暗殺の「真相」を観客に暗示していると言える(「JFK」では、ケネディ暗殺はCIAと副大統領の陰謀ということになっていた)。
 
 ロシア人たちがものすごいロシアなまりの英語で喋るところなんか、笑ってしまいました。それから、「月曜日の空爆でより効果が出る」と冷たく言い放ったガマガエルのような将軍がくわえていた葉巻はひょっとしてキューバ産?
 そして、映画の小道具にすぐ目を奪われるpipiとしましては、1962年のオフィス機器に注目! 旧式のタイプライターとか、クラシックカーなど、よくぞ集めたものだと感動。古い戦闘機はどうしたんだろうと思っていたら、なんと、フィリピン軍で現役活躍中なのを撮影に借りたとか…(^^;
 現代史に興味のある方、一見を。

Thrteen Days

上映時間 145分
製作国  アメリカ合衆国
ビーコン・ピクチャーズ作品

 監督:ロジャー・ドナルドソン
脚本:デビッド・セルフ
製作:アーミアン・バーンスタイン
    ピーター・O・アーモンド
    ケヴィン・コスナ
音楽:トレバー・ジョーン
出演:ケヴィン・コスナ
    ブルース・グリーンウッド
    スティーブン・カルプ
    ディラン・ベイカ