
ええぇ~っ、そんなことってあり?! と仰天したラストシーン。この壮絶なラストシーンは観客を騙す奇術だ。ちょっと納得できないんだけど、面白かったから騙されてもよしとしよう。
19世紀末のロンドン、連日のように劇場ではマジシャン達のパフォーマンスが繰り広げられていた。ライバルの「瞬間移動」芸のネタを盗もうとしていた天才奇術師「教授」ことアルフレッド・ボーデンは、ライバルのロバート・アンジャー殺しの疑いで死刑判決を受ける。物語は一転、二人がかつて有名奇術師の助手仲間だった時代へと遡る…
さすがはクリストファー・ノーラン監督の作品らしく、時間軸はめまぐるしく移動し、ライバル同士が入手したお互いの秘密の手帳を盗み読むという複雑な状況が描かれている。二人は若いころ、一緒に脱出芸の助手をしていたのだが、ボーデンの手違いでアンジャーの妻が事故死してしまう。それ以来、アンジャーはボーデンを仇と憎み、さらにお互いの腕を競い合う壮絶なライバル意識を燃やす。
アンジャーとボーデンという二人の奇術師の腕がともに素晴らしく、また当時実際に行われていたであろう奇術の種明かしなども面白く、長い映画なのだがまったく飽きない。面白いと思ったのは、奇術師にはタネ仕掛け人兼マネージャーが付いているということだ。この仕掛け人を演じたマイケル・ケインがさすがの老練な演技で安心して見ていられる。
ニコラ・テスラという人物のことはまったく知らなかったのだが、予備知識がないとわかりにくいという情報を得ていたため、急遽付け焼刃で調べておいたのが正解だった。エジソンとの確執を知らなければ映画だけではさっぱり訳けが分からなかっただろう。アンジャーとボーデンという命がけのライバルとともにテスラとエジソンという電気界のライバル関係もこの映画には盛り込まれているのだ。アメリカ人のテスラを演じたのがデヴィッド・ボウイ。久しぶりにスクリーンで見たらすっかり貫禄のついたおぢ様になっているので驚いた。
壮絶なライバル意識と芸へのこだわりに、粛然とした気持ちすらわいてくる映画だった。芸で身を立てる者は私生活を犠牲にすることを厭わない。現代の芸能人にしてもプライバシーを売り渡すことで儲けているわけで、この当時の奇術師も自分を偽ることでトップを目指していたのだ。仕事がマジックという人騙しの芸であるだけでなく、あらゆる者を騙す。自分自身をも騙しているかもしれない。そして映画じたいが観客を騙す。わたしたちは気付かないうちにこの大きなペテンという現代社会の中で生きていることに気付かされるだろう。
この映画のテーマは、虚飾で身を飾る近代人のエートスの揺らぎを描いたものと解釈した。自己像と他者像の入れ子がいくつも描かれるのは、わたしたちの自己認識の「精神の束」のようなものを表している。自己とはなにか? 他者とは何か? 複製とは何か? わたしたちはほんとうに「揺らぎなき自我」を生きているのか?
もう少し華麗な奇術をふんだんに見せてくれれば文句なし。編集段階でカットされてしまったマジックがけっこうあったようで、上映時間との関係であまり贅沢は言えないか…。結末がわかってから思い起こせば様々に張ってあった伏線が一挙に脳裏に甦る。これは一度ではなく2度見て楽しむ映画ですな。
----------------------------
THE PRESTIGE
アメリカ、2006年、上映時間 130分製作国 アメリカ
製作・監督: クリストファー・ノーラン、製作総指揮: クリス・J・ボールほか、原作: クリストファー・プリースト 『奇術師』、脚本: クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン、音楽: デヴィッド・ジュリアン
出演: ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、スカーレット・ヨハンソン、パイパー・ペラーボ、デヴィッド・ボウイ