吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ハケンアニメ!

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 ハケンは派遣じゃなくて覇権だった。この映画を去年のうちに劇場で見ていたら、「本年の日本映画ナンバー1!」と叫んでいたかもしれない。

 柄本佑がかっこいいと思った初めての作品として特記すべきか。なんで今まであんなにかっこ悪い役しか演じてなかったんだ?! ガタイもいいし、キャラもいい。こういう美味しいところを最後にさらっていく彼を初めて見た気がする(わたしが知らないだけかも)。

 映画のバックステージものは多いのだが、アニメのバックステージものは初めて見た。アニメのスタジオってこんなふうに仕事を回しているのか、と興味津々。主人公は公務員を辞めてアニメ業界に飛び込んだ若き女性、斎藤瞳。彼女の監督デビュー作が決まり、テレビでの連続アニメが始まるので、気合が入っている。アニメ対決のトークショーが行われ、斎藤瞳監督の裏番組を監督する王子千晴と丁々発止のトークを展開する場面が実に見どころ多くて面白い。王子監督は天才と呼ばれたが、長らく不振で作品が作れずにいた。ようやく復帰作となるのが、「運命戦線リデルライト」。王子監督に憧れてこの世界に入った齋藤監督としては内心穏やかでないが、「わたしのこの作品、「サウンドバック 奏の石」でハケンを獲ります!」と宣言する。

 王子監督を演じた中村倫也がすごくいい。拗ねたような、人をバカにしているような覇気のないしゃべり方だが、変人監督らしさが存分に出ている。王子のせいで振り回されるプロデューサーはたまったものではない。

 二人の力ある監督たちのプロディーサーがまた仕事ができる人たち。女性監督には男性プロデューサー、男性監督には女性プロデューサーという配置でこの物語は進む。それぞれの組み合わせが絶妙で、妙にリアルかつユーモラスだ。役者がみんな上手い。

 非常にテンポよくトントン話が進み、劇中劇たるアニメもなかなかのクオリティで、音楽もすごくいい。毎週のアニメ放送中はSNSでのファンのツイートが林立し、放送が終わると視聴率の数字が踊る。この展開に観客もハラハラすること間違いなし。この覇権争い、どちらが勝つのか?! いや実はそんな単純な勝ち負けの話でもないんだな、これが。

 長いエンドクレジットの最後にボーナスカットがついている。これを見ないと大損! 本作はアニメ制作の現場がわかる、アニメーターたちの働く姿が見える、労働映画と言えるだろう。一生懸命働く人々の姿は尊い。あとはアニメ現場の労働条件をなんとかしてほしいね、やりがい搾取もいいところだよ。(Netflix

2022
日本  Color  129分
監督:吉野耕平
製作:木村光仁ほか
原作:辻村深月
脚本:政池洋佑
撮影:清久素延
音楽:池頼広
出演:吉岡里帆中村倫也工藤阿須加小野花梨古舘寛治徳井優柄本佑尾野真千子
声の出演:梶裕貴潘めぐみ木野日菜速水奨高橋李依