タイトルが「グリード」ですよ! つまり、「強欲」。これって七つの大罪の一つのはず。そんなタイトルを背負わされたヒーローは誰かと言うと、イギリスのアパレル界の成功者、リチャード・マクリディ卿。この映画は実在のモデルがいて、そのモデルをこれでもかとばかりにあざ笑い貶めるので、なんで名誉棄損で訴えられていないのかが不思議なぐらいだ。イギリス人ならば、この映画が誰をモデルにしているのかは言を俟たないところなんだろう(アルカディアグループ会長のフィリップ・グリーンだそうな)。
彼が若いころから貪欲で、大阪人もびっくりの値切り倒し人間であったことが描かれる冒頭、演出はなかなかスピーディでよろしい。しかしいくら値切るのがうまいからといって、アジアの最低賃金労働者をこきつかおうと発想するところがたまらなくいやらしい。あ、それは日本のユニクロも同じですね、ユニクロを着ているみなさん反省しましょう。
とにかく安い賃金で労働者を使い倒せる場所を探してどこまでも。それで儲けた金について税金はびた1ポンドも払いたくない。資本家というのはこういう人を言うのだな、なるほど。潔いほどグリードなのでもう感動するしかない。監督はマイケル・ウィンターボトムだから、この手の人物にはもちろん大いなる皮肉と鉄槌をくだそうという魂胆ありありで、それでこの映画もとても面白くて笑うしかない。こんなに社会派映画なのに! 賃金差別やグローバリゼーションを告発しているのに! でもコメディなんです。
最後までコメディであることに感動するしかない。だって、主人公リチャード・マクリディ卿は自身の60歳記念誕生日会を盛大に祝おうとあれこれと手を尽くしているというのに結局は……。
主役を演じたスティーブ・クーガンってわたしはけっこう好きな役者で、こういう嫌味な親父役も実にうまく演じていて感動した。しかしこういう人物に「卿」の称号を与えてしまうイギリスってどうよ。
映画ではこの大富豪であるリチャード・マクリディ卿の伝記を書こうとしている作家の視点が多く用いられているが、彼とても自分の被伝者の実像に迫ることはなかなか厳しい。結局のところこの経営者の強欲と気の強さは最後の最後まで保たれている。そこがあっぱれ。
アジアの最低賃金労働者の搾取の上に成り立つ安い服を着ている我が身を恥じないのか? と問われると、思わず口をつぐんでしまいそうになるのが恥ずかしい。ひきつり笑いを繰り返した挙句の本作の結末にはただひたすら、「自責の念を感じよ、笑っている汝も罪びとなり」とウィンターボトム監督に説教されているような気になる。(レンタルDVD)
2019
GREED
イギリス Color 104分
監督:マイケル・ウィンターボトム
製作:ダミアン・ジョーンズ、メリッサ・パーメンター
脚本:マイケル・ウィンターボトム
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
出演:スティーヴ・クーガン、デヴィッド・ミッチェル、エイサ・バターフィールド、ソフィー・クックソン、シャーリー・ヘンダーソン、アイラ・フィッシャー