14歳のひと夏の暴走物語。男子二人のバディ・ロードムービーは愉快痛快。ファティ・アキン監督の作品はこれまでも佳作が多かったが、本作もひと際印象に残る作品となった。「愛より強く」「ソウル・キッチン」よりも本作が気に入った。
運転免許なんてもちろんもっていない少年たちが、ボロ車を盗んで祖父を訪ねる旅に出る。行き先は「ワラキア」って、それは実在の場所じゃないでしょ! 要するにどこでもいいんだよね、少年たちは胸のなかにいろんな思いをいっぱいに膨らませて、家庭の崩壊やら育児放棄やらいろんなことから自由になりたい。だから、ロシアからやってきた悪ガキに誘われたら、ふだんおとなしいマイクも暴走するのだ。この悪ガキがほんとうに小憎たらしくも可愛いというか、小さいときのうちのY太郎にそっくりなのでとても愛しい。もうこの子の顔を見ているだけでわたしは画面に吸い付けられました。というわけで、ロシアからやって来た少年チックはアジア系なのだ。モヒカン刈りみたいな大五郎カットの頭髪もいけてる。
この映画は基本的にファンタジーなので、リアリティは無視。それでいいのだ。なんでこんな廃墟に女の子がいるんだ? なんでチックは運転ができるわけ? なんでなんでなんでといろいろ考えてはいけない。そもそもこの二人のロードムービーじたいがなあーんも考えていないのだから。こういう行き当たりばったりの無茶クチャっていうのは、それができない人の代替行為として意味があるのだから、映画に倫理を求めてはいけません。
「50年後にまた会おうよ」という約束が守られるとはとうてい思えないけれど、それを信じて荒野を走る彼らの姿には胸が熱くなるものが。テンポのいい明るい映画なので、眠くならずにいいです。あ、リチャード・クレーダーマン、久しぶりに聞いた。やっぱりださい(笑)。
TSCHICK
ドイツ、93分、2016
監督:ファティ・アキン、原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ『14歳、ぼくらの疾走』、脚本:ラース・フープリヒト、音楽:ヴィンス・ポープ
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ、メルセデス・ミュラー、ウーヴェ・ボーム、アニャ・シュナイダー