吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

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世の中に変人は数あれど、本作の主人公はその変人その1の一人である。変人大好きなわたしとしては見ずにはおられない物語。そして実に不思議なお話であった。

 南仏の田舎に住むシュヴァルが30年以上をかけて一人こつこつと石を積み上げて作ったけったいな形の宮殿は今ではフランスの観光名所になっているという。これは19世紀末から20世紀初めにかけての出来事なので、すでに百年以上も前のことだ。その頃はまだ多くの人々が天寿を全うすることなく亡くなっていた。そんな時代に生きた、あまりにも無口で不器用な、しかし頑固一徹の郵便配達人の物語。

 シュヴァルは若くして妻に先立たれたが、その悲しみを言葉にすることもできず、嘆き悲しむすべも知らないような人物だった。やがて再婚した彼は新たに娘をもうけるが、その娘をどのように可愛がってよいのかわからない。しかしふとしたことから石を拾って積み上げていくようになる。宮殿を建てて幼い娘を喜ばせそうと思ったのだ。その日から33年。何があっても毎日彼は石を積み続けた。もちろん郵便配達人としての仕事は全うしているから、石積みは仕事が終わってから、あるいは仕事の合間に行うことになる。彼は寝る間も惜しんで石を積み宮殿を作り続けた。その強靭な体力に脱帽するしかない。

 それにしてもあれほど無口な男がよく再婚できたものだと感心する。どうやって口説いたんだ? 口説かれたのか? あまりにも自らの感情を表に出せない、人とのつきあいが下手な人がどうやって家族と付き合ってきたのかも不思議だ。

 しかし、目は口程に物を言うではなく、彼が作った宮殿は幾百の言葉よりも家族への愛を表出していた。たぶんもう、最後は執念だったのだろうとわたしは想像する。最初は確かに娘を喜ばせようと思ったのだろうが、この手のもくろみは途中から最初の目的など忘れてしまって、ただただ作業を続けることが自己目的化されるものだ。

 で、出来上がった宮殿はもちろん奇妙奇天烈な建物である。ひょっとしたらサグラダファミリアに似ているかもしれないが、ド素人が設計図も作らずに、絵葉書で見たタージマハルなどをヒントにアイデアを紡いだというしろものは、タージマハルには似ても似つかない。

 執念をもって何十年も同じことを続けていくその生きざまには、なぜか惹かれてしまうし、この人、性格はわたしと全然違うのに、どこか似ているんじゃないか。知らんけど。(レンタルDVD) 

2018
L'INCROYABLE HISTOIRE DU FACTEUR CHEVAL
フランス Color 105分
監督:ニルス・タヴェルニエ
製作:アレクサンドラ・フェシュネル、フランク・ミルサン
脚本:ファニー・デマール、ニルス・タヴェルニエ、ロラン・ベルトーニ
撮影:ヴァンサン・ギャロ
音楽:バチスト・コルー、ピエール・コルー
出演:ジャック・ガンブランレティシア・カスタ、ベルナール・ル・コク、フローレンス・トマシン