吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

荒野の誓い

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 全体的に落ち着いた演出といい、ところどころで緊迫感を高めるメリハリの付け方といい、心に残るラストシーンといい、近年まれにみる優れた西部劇だ。スコット・クーパーは製作・監督・脚本を兼ねているから、相当に思い入れがあるのだろう。

 ただし、邦題が「荒野の誓い」というのはマカロニ・ウェスタンを彷彿とさせるものであり、「西部劇なら荒野」という短絡的な宣伝戦術には苦笑せざるをえない。

 冒頭、家族を「インディアン」に皆殺しされる若き主婦ロザリーの恐怖と塗炭の苦しみと怒りが見る者の胸を打つ。復讐心に燃えるロザリーをロザムンド・パイクが静かに熱演している。また、主人公のジョー・ブロッカー大尉を演じるクリスチャン・ベイルの渋い演技が見事で、彼がこんなに重々しくも難しい役を演じる俳優になってくれたことに感謝するしかない。もともと演技力は群を抜いていた彼だが、今回は退役間近のベテラン軍人で、しかも過去にネイティブ・アメリカンと血で血を洗う戦いを経験した心の傷を持つ男という難しい役を、佇まいだけで演じ切ってしまった。

 ネイティブ・アメリカンを虐殺することによって建国したアメリカ合衆国は手ひどい復讐を受ける。白人と先住民の戦いは憎悪と復讐の連鎖を産み、時代はついにフロンティアが消滅する1892年へとたどり着いた。もはや先住民は先祖伝来の土地に住み続ける権利を奪われ、遠く離れた場所で囚人として暮らすしかない。死期が近づき監獄から解放されたシャイアン族の族長とその家族を祖先の地へと送り届けることを命じられたブロッカー大尉は、宿敵との旅を通してどう変わるのか?

 雄大な風景にそぐわない、人間の醜い殺し合いの場面が続く。旅の一行全員が家族や仲間を殺された恨みと憎悪ではちきれている。だが旅を続けることによって少しずつ心を開いていく宿敵同士。旅の果てに見えるものはなんなのだろうか。

 100年以上前を舞台とする物語だが、いまだに続く異文化・異民族への排斥、憎悪といった負の連鎖を断ち切り贖うものの存在について深く考えさせられる。(レンタルDVD) 

HOSTILES

アメリカ、2017、135分

監督:スコット・クーパー
製作:スコット・クーパーほか
脚本:スコット・クーパー
撮影:マサノブ・タカヤナギ
音楽:マックス・リヒター
出演:クリスチャン・ベイルロザムンド・パイクウェス・ステューディジェシー・プレモンス、アダム・ビーチ、ティモシー・シャラメ、ポール・アンダーソン