吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

赤い風車

 ロートレックの伝記映画。芸術家の伝記映画は大好きなジャンルの一つ。

 この映画を観るまでロートレックの伝記的事実はほとんど知らなかった。もともとロートレックにはそれほど惹かれないので、あまり関心がなかったのだ。だから彼が伯爵家の御曹司であり、病気とケガのために足が発育せず、極端な短躯であったことを知らなかった。

 絵の才能がありながら身体的劣等感にさいなまれていたロートレックは、そこだけが自分を受け入れて入れてくれる場所であるダンスホールムーラン・ルージュ」に毎夜入り浸っていた。彼が描いた踊り子たちの姿がそのまま映画の中でものすごい迫力を以て再現される。その喧騒、その陽気、そのエロス、まさにロートレックの世界だ。 

 足を折りたたんでロートレックを演じたホセ・ファーラーは、貴族らしい雰囲気をよく体現している。実際のロートレックは旺盛な性欲で娼婦たちと交わったとWikipediaに書かれているが、映画の中では純愛に身を捧げる上品な男として描かれている。

 しかし彼は身体障がい者としての劣等感から人を信用できず、愛を信じることができなかった。毎夜の深酒で体を壊し、最後は両親に看取られて死んでいく。その最期の場面で幻想の中のムーランルージュの人々が愛おしく彼を温かく見守るシーンは涙をそそる。

 破滅型人生を生き急いだ男の悲劇として心に残る映画であった。(Amazonプライムビデオ) 

1952
MOULIN ROUGE
イギリス / アメリカ  Color  120分
監督:ジョン・ヒューストン
製作:
ジャック・クレイトン
原作:
ピエール・ラミュール
脚本:
ジョン・ヒューストンアンソニー・ヴェイラー
撮影:
オズワルド・モリス
音楽:
ジョルジュ・オーリック
出演:
ホセ・ファーラーコレット・マルシャン、シュザンヌ・フロン