吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

バンクシー・ダズ・ニューヨーク

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 おかしい。既視感がある。どの場面もみな既視感がある。何十分見ても既視感がある。半分ぐらい見たところで思わず過去記事を検索したけれど、見つからない。こんなことってあるのかなー。まあええわ。
 バンクシーは謎のストリートアーティスト。彼の顔を見たものはいない。彼の作品はある日突然ストリートの壁に描かれ、それを本人がTwitterに投稿することによってフォロワーがその絵の存在を知り、やっきになって探し回る。そんなことが2013年のある一か月間、ニューヨークで起こった。既に匿名アーティストとしてその社会派作品はよく知られていたバンクシー。多くのおかっけファンが次々動画や静止画を投稿しながら彼の作品を追いかける。そんな映像をつなぎ、ファンや学芸員や画廊のインタビューを交えて作ったのが本作である。
 バンクシーのしていることは私有財産の棄損であり犯罪だとNY市長は宣言し、警察は彼を逮捕しようとやっきになる。しかし、一方で自分のアパートの壁にバンクシーの「落書き」が描かれたおかげで不動産の価値が上がった、借り手が増えたと喜んでいる人もいる。バンクシーの絵は数時間後には壁の所有者によって消されてしまうことが多い。あるいは、彼となんの関係もない人間が盗んでオークションにかけたりしている。その値段が数百万ドルにまで跳ね上がることもある。
 権威を笑い、権威を否定するバンクシーの絵がオークションという権威を通過して価値をもつことをバンクシーはどう思っているのだろう? そもそも自分の絵を売るということをしないバンクシーはどうやって生活費をかせいでいるのか。とっても不思議である。このドキュメンタリーはバンクシーが何をしているのかを後追いするには面白いが、本人のインタビューがいっさい撮れていない時点で「負け」だ。バンクシーの作品も楽しいが、それを追いかけている人々はもっと興味深い。バンクシーの絵は屋外に設置されている作品なので、著作権フリーである。いくらでも撮影できる、というのがよいね。おかげでこの映画は製作費がずいぶん助かっているのではないか。続編が間もなく公開されるので、それも見てみたい。(u-next)

BANKSY DOES NEW YORK
81分、アメリカ、2014
監督:クリス・モーカーベル
製作:ジャック・ターナー、クリス・モーカーベル