吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ノートルダム 炎の大聖堂

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 文化財保全する意義を語る講義のネタにと思って見た映画なのだが、予想以上に面白く、胸が熱くなる作品だった。

 「タワーリング・インフェルノ」「バックドラフト」「バーニング・オーシャン」といった、消防士や火災を扱った映画はいくつか見てきたが、これらハリウッド映画には必ず固有名詞を持ったヒーローが登場する。それに対して今度のフランス映画は群像劇であり、特定のヒーローにスポットが当たることはない。特定のヒーローが登場しない映画には感情移入が難しいのだが、この映画はその点、それぞれの人々の背景が想像できるし、全員が「役割」を持って登場しているので、「この立場の人間ならこう考えていることだろう」といった内面が容易に予測できる。

 火災が起きた原因は工事現場のタバコの火の不始末だとか電線のショートだとか言われていたようだが、今のところ不明ということになっている。映画も、原因については確定的な情報を流さないが、この二つが同時に起きたようなニュアンスで映画かれている。しかし、火災が初期で消火されていればこのような建物被害を生むことにはならなかったであろうことは想像に難くない。多くの悲惨な事故がいくつもの手抜きや失敗が重なって起きたことと同じく、この火災もいくつもの要因が重なっていることが見て取れる。

 では問題は、起きてしまった火災にどう対処するか、である。消防隊がどのように現場で奮闘したのか、学芸員はどのようにして聖遺物を救出したのか。実にスリリングな状況が次々と画面に描かれ、一時も息をつけない。

 そしてマクロン大統領登場。実際の本人映像が何度も映る。当夜予定していた演説を急遽中止して現場に急行したマクロンを見て、わたしは「やってる感を出すためにノコノコ現場にやってきたのか。はっきりいって邪魔ちゃうのん?!」と心の中で叫んでいた。それでなくてもパリの道路は大渋滞して消防車が通れずに大苦戦しているというのに!

 この映画ではSNSを通じて大量の映像を集め、編集している。ドキュメンタリーの手法を随所で使っているため、大変臨場感がある。実映像とドラマ再現部分を巧みに組み合わせている場面などは、カメラと編集のお手並みがよいので感心した。

 音楽はジョーン・ウィリアムズのようなハンス・ジマーのような大仰なものなのだが、なかなかよかった。音楽が相当に盛り上がりを助けていて、演出は全体にとてもわかりやすい。

 この映画は、それぞれの任務・業務に懸命に尽くす人々を描いたという点では「労働映画」とも呼べるだろう。実に見ごたえがあった。

2021
NOTRE-DAME BRULE
フランス / イタリア  Color  110分
監督:ジャン=ジャック・アノー
製作:ジェローム・セドゥ、アルダヴァン・サファイー
脚本:ジャン=ジャック・アノー、トマ・ビデガン
撮影:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:サイモン・フラングレン
出演:サミュエル・ラバルト
ジャン=ポール・ボルデ
ミカエル・シリニアン
ジェレミー・ラウールト