吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

イントゥ・ザ・ストーム

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竜巻といえば「ツイスター」。もう18年も前の映画だったのか。あっという間です。友人と二人で子育ての手を離れて久しぶりに見に行った映画として印象深かった。でも内容じたいはダメダメで笑ってしまったけど。あんな映画でも見に行けたことが嬉しくて、当時3歳と5歳の子どもを抱えていたわたしにとってはつかの間の休息だったんだ。

 して、久しぶりの竜巻映画としてこちらはいかがか。最初から最後までずっと緊張が持続して、なかなかによろしい。90分という短さもよい。実はもっと長いように感じたけど、この程度ですっきり終わらせてくれてよかったわ。基本的に竜巻を追いかけたり竜巻から逃げたりするだけの映画だから、これ以上の尺は無理でしょう。人間ドラマなんか期待していないから、これで充分。「ツイスター」のときと同じく竜巻を追いかけることを生業にする人々が登場する。 

 かの「ツイスター」時代から20年近くが経って、世界の異常気象がすでに「常態化」していることに気づいて愕然とした。映画でないと見られなかったような大災害が実際にいくつも起きている。巨大ハリケーン、巨大竜巻、巨大津波、大地震、、、、だから映画でこれくらい大げさに何本もの竜巻が同時に発生して建物をドリルで削るように破壊しつくしていく様子を見せないと観客は驚かないのだ。そして現代を感じさせる設定は、Youtubeにアップするためにスマホやデジカメを手持ちしながら竜巻を追いかけるおばかな若者(中年もいたな)の存在。今や誰もが撮影しネットで発信することができる、人類みなカメラマン時代を実感させる。

 本作はほとんどすべてのシーンが、登場人物が回したカメラを通して見ているという設定になっている。POV(主観)ショットと呼ばれるものを複数組み合わせるシーンの構成はなかなか面白い。

 竜巻に襲われるアメリカ中西部の高校の教頭先生が主役で、これがリチャード・アーミティッジというイギリス出身のハンサム中年男優が演じていて、個人的にはこのリチャードが趣味に合致したため、きわめて心地よくデザスターを楽しめた。

 圧巻は炎が竜巻に巻き上げられていくシーン。もう口あんぐり。竜巻、という言葉通り、竜が火炎放射しながらのたくっている様を想像させる。もうひとつの圧巻は竜巻の「目」の中を浮遊するシーン。ここは天国か、と思える無重力状態の静けさにああ、このまま光のもとへ…とうっとりしてしまう。竜巻を追いかけたり逃げたりしながら被災場所を転々と変える、学校の中、マンホールの中、車、バス、といろんなアイデアが詰まっていて、最後まで絶対に飽きない見事な展開。

 高校生たちが崩壊した建物の中に閉じ込められて徐々に水没していくシーンは、今年の韓国セウォル号の事故を思い出してつらかった。

 人物の描き方は定型的でおざなりだけれど、そんなことは気にならない。ユーモアもあって、楽しめる映画。ぜひ劇場でご覧あれ。

INTO THE STORM

89分、アメリカ、2014

監督: スティーヴン・クエイル、製作: トッド・ガーナー、製作総指揮: リチャード・ブレナーほか、脚本: ジョン・スウェットナム、撮影: ブライアン・ピアソン、音楽: ブライアン・タイラー

出演: リチャード・アーミティッジ、サラ・ウェイン・キャリーズ 、マット・ウォルシュ、アリシア・デブナム=ケアリー