原作はかなり前に読んだので内容をほとんど忘れてしまっているが、原作では老いにある主人公の性的な怯えや若い女への執着、といった老人の視点での性への渇望のようなものが描かれていたはず。原作は男の作品だと思ったが、映画は女性の視点で描かれている。たとえ男の主人公のモノローグで語られていたとしても、この映画を見て感動し入れ込むのは女性だと思う。ラストシーンの砂浜の場面がとても寂しく切ないのも女性向けだ。老教授から宝物のように愛される若い女、その自尊心や歓びは観客たる女性の心をくすぐるだろう。
エンド・クレジットを見て思い出した。監督は「死ぬまでにしたい10のこと」「あなたになら言える秘密のこと」のイザベル・コイシェだった。さもありなん、彼女らしい映画だ。彼女の作品にはいつも死の香りがする。老いていく自分に怯える初老の教授が、自分よりも先に病んで死んでいく美しい恋人の前で初めて自分をさらけ出し、愛の深淵について知る。人生の最後にたどり着いた真実の愛がもはや時間をもたないことの悲しさと切なさは胸に迫るものがある。映像も美しく、音楽もいい。
ベン・キングズレーの友人役で出演しているデニス・ホッパーが先頃亡くなった。この作品でもいい味わいを見せてくれていたのに、残念。(レンタルDVD)
ELEGY
112分、アメリカ、2008
監督: イザベル・コイシェ、製作: トム・ローゼンバーグほか、原作: フィリップ・ロス『ダイング・アニマル』、脚本: ニコラス・メイヤー
出演: ペネロペ・クルス、ベン・キングズレー、パトリシア・クラークソン、デニス・ホッパー、ピーター・サースガード