「アイアン・スカイ」に続いてオバカ映画連発。あまりにも下品な下ネタが多いので、良識あるインテリは決してこんな映画は見ないでしょう。まさかこれを見て笑ったりはしないよねぇ。そのうえ、うぷぷ、とか言って帰りの電車の中で反芻して笑ったりなんて決して決してしたりしませんとも、ええ!
「キム・ジョンイルを偲んで」って、ええ? いきなりそんな献辞から始まるんですか。
地上の最後の独裁者、最後の将軍様ですか。北アフリカからニューヨークにやってきて行方不明って、そんな映画は過去にもあったような。んでフェミニズム原理主義者みたいな女性と出会うって、そんな嫌がらせみたいな設定。おまけに彼女はエコロジストで左翼なんですね。ここまで嫌味をするんですか、サシャ・バロン・コーエンさん。
前作「ボラット」はあまりにも下品なドキュメンタリーコメディだったのでわたしは眉をひそめて見ていたけど、本作は一応全部フィクションなのでそれなりに安心して(?)見ることができるだけ、マシかも。その分、馬鹿馬鹿しさはレベルアップしても毒とスリルが減ったという評価もありえよう。
「アラブのテロリスト」丸出しの将軍様が911をネタに観光客を震え上がらせる場面なんて笑えそうで笑えないが、アメリカ人の「アラブのテロ」恐怖の病的な現状を皮肉る珍場面だ。食料品店で商品にいたずらする子どもを蹴り倒すといった胸がスカッとする場面があったりするのも、そんなことやりたくてもできない良心的な大人の密かな願望を体現してくれる、実によい映画である。
かつて「独裁者」というチャプリンの名作があったが、あれを100倍下品にしているところに観客の賛否が分かれる。というか、最初からこんなこんな映画、賛否を超えて好事家しか見に来ません。わたしはシネマイレージカードの鑑賞ポイントを使って観たからタダだけど、お金出して観る人いるのかなぁ。
ただし、最後のアメリカ民主主義批判演説だけはさすがにコーエン監督の頭の良さの片鱗が伺えるものだった。ここまで下品に落としておいて最後に真面目に演説させたっていうのは、コーエンの「転向」かもしれない。と思うでしょ、ところがどっこい。やっぱりコーエン作品ですね、主人公はやっぱり偏見と差別意識に満ち溢れた独裁者です、というオチで終わります。
というわけで、よい子は決して見てはいけません。もちろん、良識ある大人も決して見てはいけません。よくもまあ、ここまですごい下ネタを考えつくものだと感動してしまう。いろいろありすぎてここで例示するのも躊躇われる、ふつうの大人はこんなこと思いつきませんよ。……うぷぷ。
カメオ出演するハリウッドの有名俳優たちの許可はちゃんと取ったのかしら。心配。
THE DICTATOR
上映時間 83分、アメリカ、2012
監督:ラリー・チャールズ、製作:サシャ・バロン・コーエンほか、脚本:サシャ・バロン・コーエンほか、音楽:エラン・バロン・コーエン
出演:サシャ・バロン・コーエン、アンナ・ファリス、ベン・キングズレー、ミーガン・フォックス、エドワード・ノートン、ジョン・C・ライリー