吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

イースト/ウェスト 遙かなる祖国

ginyu2001-12-22 梅田ガーデンシネマにて


 おそらく女性客は全員泣いていただろう。もちろんわたしは嗚咽をこらえて一人涙していた。

 1946年、スターリンはヨーロッパ各国に亡命していたロシア人達に帰国を許可した。祖国への熱い思いを胸に、ロシア人医師アレクセイ(オレグ・メンシコフ)は、フランス人妻マリー(サンドリーヌ・ボネール)と幼い息子セルゲイを伴ってオデッサ港に降り立った。
 悲劇はここから始まる。
 帰国亡命者のほとんどがスパイの疑いをかけられて処刑されたり強制収容所へ送られた。アレクセイは名医の腕を買われて妻子共に処刑を免れ、キエフで工場付きの医師となる。港で厳しい取り調べを受けて、上陸の瞬間に早くもマリーの目の前には暗雲がたれ込める。マリーはなんとかしてフランスへ帰ろうとやっきになるのだが…。
 ソ連へ帰国してから実に10年の日々が流れ、マリーの自由と祖国への思いは消えることなく、様々な艱難辛苦を乗り越え、旅路の果てにアレクセイの深い愛を知ることとなる。
 国籍・イデオロギーに引き裂かれる愛の悲しさが胸に迫る。スターリニズムを憎むと同時に、自由の国のはずのフランスでもやはり国家権力の建前が個人の幸せを踏みにじる、その不条理を憎む気持ちが沸々と湧いてくる。
 スターリニズムの描き方がステレオタイプなのが気になるし、フランスで裕福に暮らしていたであろう医師の妻マリーが、プチブル生活とは無縁の貧しいソ連の暮らしに耐えられないのもあまり同情できないのだが、それを差し引いてもやはり、相互干渉・監視・密告の恐怖にさいなまれる生活には人間性の全否定を痛感する。
 党幹部や上層部にへつらうかのように見える夫にマリーが冷めた目を向けるようになり、夫婦の間に亀裂が入り出すとき、アレクセイが同じアパートの管理人と浮気する。実はこれも彼の深慮遠謀だったのだが、それだけとは言えないものを感じる。苦悩を共有しようとしない妻の冷たい視線に出会うと、男は情愛に満ちた目で自分を見つめてくれる女に惹かれてしまうものなのかも知れない。
 妻も夫もともに愛人を作るという危機的状況も、強制収容所での離ればなれの時間をも乗り越え、6年ぶりに出会った妻に「君は変わっていない。むしろ美しさが増したようだ」と語る夫アレクセイの言葉! 痩せてやつれたマリーに口づけ、「愛しているよ」という言葉を注ぐアレクセイに、わたしは背中に戦慄が走るような感動を覚えた。その美しいフランス語の響き! そんな風に愛されたら、もう死んでもいい!

 カトリーヌ・ドヌーヴが現れると、まさに姉御登場、って感じで画面全体が引き締まるから不思議。ものすごい貫禄には脱帽。自らの政治信条に忠実に、そして約束を守ることに命懸けになる大女優の姿にも感服した。

 ひたすらに一人の女性を愛したアレクセイの思いに心揺さぶられ、その引き裂かれる愛の深さにただ感動の余韻にひたるメロドラマ。女性の皆様、泣いてください。



 望年会の前に観ました。ガーデンシネマの隣のスクリーンでは「メメント」を上映中。行列ができていた。次はこれを観よう。

 マリーの浮気相手の若者は水泳選手。当時はまだクイックターンなんてなかったんだな。泳法が古いのでちょっと懐かしい。それに、海での遠泳にしたって、今ならドライスーツを着て泳ぐべき所。裸体にワセリンを塗って荒波の中を6時間も泳ぐなんて、すさまじいバイタリティだ。  

Est-Ouest
上映時間 121分
製作年:2000年
製作国 ブルガリア/フランス/ロシア/スペイン
監督: レジス・ヴァルニエ
製作: イヴ・マルミオン
脚本: セルゲイ・ボドロフ
    ルイ・ガルデル
    ルスタム・イブラギムベコフ
撮影: ローラン・ダイヤン
音楽: パトリック・ドイル
出演: サンドリーヌ・ボネール
    オレグ・メンシコフ
    カトリーヌ・ドヌーヴ
    セルゲイ・ボドロフ・Jr