吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

太陽に灼かれて

 「戦火のナージャ」の予習のために長男Y太郎と一緒に鑑賞。1994年度アカデミー賞外国語映画賞およびカンヌ映画祭審査員特別グランプリ受賞作。

 ロシア版フェリーニみたいにけたたましい映画、というYの評価は言いえて妙。しかも、そのけたたましくも明るくも能天気なお話があっという間に奈落の底へ。その急展開には息を呑む思い。さてストーリーは…

 1936年の夏の日、ロシア革命の英雄コトフ大佐は若く美しい妻マルージャと愛くるしい娘ナージャと共に田園にのんびりと暮らしていた。そこに都会からマルージャの幼馴染でかつての恋人ドミートリがやってくる。音楽家であるドミートリは実は秘密警察の一員だった。彼は恋人を奪ったコトフ大佐に密かに復讐を誓っていた…

 スターリン批判を内包した作品なのだけれど、何を言いたいのかよくわからない。のんべんだらりと田舎のドンちゃん騒ぎをユーモラスに描きつつ、いきなり秘密警察だのスパイだのという話になって、最後は突然のカタストロフィ。これはどういうことなんだろう? なんでこれがカンヌ映画祭でグランプリ受賞か、理解不能。とはいえ、面白くないというわけでもなく、途中何箇所かははっとさせるような緊張感ある場面もあった。「暗殺の森」(B.ベルトルッチ監督)のようなものを狙ったのかもしれないが、全然出来が違う。残念ながら引き込まれる作品とは言いがたく、Yと二人で3回もチャレンジして二人とも途中で爆睡したというシロモノ。ナージャ役の少女が超絶可愛いのだけが取り得だった。あのナージャはミハルコフ監督の娘だそうな。よくぞあんな可愛い娘がいたもんだ。

 いい意味でも悪い意味でもロシア的な冗長な作品。「戦争と平和」(1965年)を思い出したわ。まあ、あれほどひどくはないけど。

 スターリンによる粛清を利用した三角関係の私怨晴らし、というお話は一見恋愛映画のようにも見えるが、粛清そのものが実は私怨に基づく、スターリンの猜疑心の強い個性から始まった大いなる惨劇だとも解釈できるわけで、二十世紀最大の殺戮の一つと言われる大粛清がそもそもはスターリンという独裁者の個性に拠るという図式をこの映画では反映しているわけだ。大粛清がボルシェビキ民主集中制という党理論から必然的に生み出されるものであったとしても、そこにスターリンという個性が絡むとかくもすさまじい展開を見せる。そしてその粛清の手先となるドミートリが、恋敵の抹殺のために手を下す。


 屋外撮影の美しさやナージャの愛らしさなど、注目すべき点は散見されるが、映画全体としては到底面白いとは言いがたい。見終わるのにかなりの忍耐を要した。(レンタルDVD)

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UTOMLYONNYE SOLNTSEM
136分、ロシア/フランス、1994
監督・脚本: ニキータ・ミハルコフ、製作: レオニド・ヴェレシュチャギンほか、共同脚本:ルスタム・イブラギムベコフ、撮影: ヴィレン・カルタ、音楽: エドゥアルド・アルテミエフ
出演: オレグ・メンシコフ、インゲボルガ・ダクネイト、ナージャ・ミハルコフ、ニキータ・ミハルコフ、アンドレ・オウマンスキ