吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

トレイン・ミッション

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 ご都合主義も極まれり、というありえない設定だけれど面白いから許す。

 リーアム・ニーソンが登場すると、とりあえずダイハードな展開だな、ということは予測可能。で、その通りに話は進む。これが気持ちいいのである。今回は通勤列車内で起きる「普段の通勤客ではない見慣れない客で終着駅で降りる者を見つけろ。その人物の名はプリン」という不思議なミッションを背負った元警官、今は失業したばかりの保険屋マイケル。向かい同士の席に座った妙な美女から「10万ドルの報酬を渡すから」という依頼を受けた。なんことかわからないけれどとりあえず家族が人質にとられてしまったということはわかった。やむなくマイケルは携帯で送られてくる女の指示通りに列車内を捜索していくのだが、その最中に殺人事件が起きてしまう。

 謎が謎を呼ぶスリリングな展開に。さてどうなる! 終着駅はまもなくだぁぁぁ!

 てか、こんなありえない設定をよく考えたもんだと感心した。おまけに列車内外でのありえないようなアクションアクションアクション! 暴走列車の転覆という恐ろしい場面もあって、JR西日本脱線事故を思い出してぞっとしてしまった。

 ほぼ荒唐無稽な話だけれど退屈はしないので、けっこうお薦め。そうそう、俳優陣も豪華です。サム・ニールは久しぶりに見たような気がする。(Amazonプライムビデオ)

2018
THE COMMUTER
アメリカ / イギリス   105分 
監督:ジャウマ・コレット=セラ
脚本:バイロン・ウィリンガー、フィリップ・デ・ブラジ、ライアン・イングル
音楽:ロケ・バニョス
出演:リーアム・ニーソン  マイケル・マコーリー
ヴェラ・ファーミガ  ジョアンナ
パトリック・ウィルソン  マーフィー
ジョナサン・バンクス  ウォルト
エリザベス・マクガヴァン  カレン・マコーリー
フローレンス・ピュー  グウェン
サム・ニール  ホーソーン警部

アルキメデスの大戦

 

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 7月末に見た映画。予想外に面白かったので、思わず原作漫画を電子版で購入してしまった。で、この映画は原作のほんのさわりの部分を描いただけに過ぎないということがわかった。わたしは原作のもつ歴史描写に引き込まれたと同時に、メカの絵ぢからに大いに感嘆した。映画がこの長い原作総てを描けないのは仕方がないだろう。

 圧巻の巻頭、戦艦大和が沈没するシーンの怖さは「タイタニック」以来の出来だ。いきなりこれだから、このあとこの映画はどうなるのかと期待で胸が膨らむ。しかし、その後はずっとドラマが続いて、戦闘シーンは結局巻頭の数分だけであった。製作費のほとんどをここにかけたんじゃないかと思われるほどの迫力だっただけに、最後にもう一度見せてほしかった。実に惜しまれる。山崎貴監督得意のVFXなのだから、もっとふんだんに見せてくれてもよかろうに~。

 さて物語は、数学の天才の誉れ高い東京帝大の学生がある誤解から大学を放校されて自棄になっているところを海軍少将山本五十六に見込まれてスカウトされる、という冒頭からかなり主人公の変人キャラが立っていて、ユーモラスだ。ここも原作と異なるところで、原作の主人公・櫂直(かい ただし)は頭が切れる真面目人間で、さほどユーモアのセンスがあるとは思えない人物。だが映画的な面白さを狙った脚本では、櫂少佐と彼の付き人になる田中少尉が最初のうちかなり険悪な雰囲気に描かれている。

 軍人嫌いの櫂がなぜ海軍に奉職したのか、それは彼が平和を願う若者であったからだ。数学の力で戦艦大和の建造を阻止し、アメリカとの戦争を抑止するという彼の理想が描かれていくが、歴史はそのようには動かなかったことは誰もが知っている。

 天才数学者らしい驚異の計算力で周囲を圧倒する櫂少佐を菅田将暉が熱演していて(彼はいつも熱演)、黒板に向かって板書するシーンなどは実に緊迫感にみちた演出でよかった。その数式がほんとうに正しいのかどうかなんてわたしみたいな数学不明の観客にはどうでもいいことで、すらすらと書き進むその手元が美しい。この場面のことを共演の國村準が「監督が全然カメラを止めなかった。どうせカットを割るくせに、意地悪だなあと思った(笑)」(大意)と語っているインタビュー映像を見て納得したが、その場面のことを菅田将暉は「自分は共演者たちに背中を向けてひたすら板書している。自分が書いている数式をみながどんなふうに見ているのか全然わからないから緊張した」(大意)ということを言っていた。

 本作はアーカイブズ映画でもある。膨大な経営資料のアーカイブズがなければ、櫂少佐の企みは成功しなかった。企業アーカイブズは大事なのだ。 

2019
 130分
日本

監督:山崎貴
製作:市川南
原作:三田紀房
脚本:山崎貴
撮影:柴崎幸三

ちいさな独裁者

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 撮影が凝っている。最初ほとんどモノクロの画面から始まって徐々に色がついていく。ほとんど観客には悟られないぐらいのゆっくりしたペースで、気づいたらいつのまにかうっすらと色がついている、という感じ。かと思えばまたまたいつの間にかモノクロに戻っている、という不思議な映画だ。巻頭のモノクロシーンはとても美しかった。

 きわめてシリアスな作品にも関わらず、途中でなんどか爆笑してしまった。こんなに恐ろしくも笑える映画ってなかなかのものだ。「ヒトラー最後の13日間」に通じるものがある。

 その物語はこうだ。1945年春、敗戦必至なドイツ軍から一人の若者が脱落した。彼は脱走兵なのだが、逃走途中で偶然手に入れた将校の服を着こみ、その将校になりすました。やがて彼は部下を従えるようになり、その数が増していく。一脱走兵が堂々とナチスの将校へとなり上がっていく様が恐ろしい。実は周囲の兵士たちは彼が偽物であることに気づいていたのだ。にもかかわらず、全員が虎の威を借りる狐よろしく最後の権威にすがりつき、肩で風切って人民を弾圧し、収容所の囚人を虐殺する。こんな、ヒトラー劣化コピーみたいな連中が大勢いてほんとうにおぞましい。

 偽将校を一瞬で偽物だと見破った兵士こそがまったくの食わせ物であり最も残虐な人間だった。これが大衆社会のトリックであり構造なのだといわんばかりの物語にはぞっとする。しかもこれは実話なのである。現代に警鐘を鳴らす作品。怖い映画ほど笑えるというアイロニーもたっぷりの必見作。(レンタルDVD) 

2017
DER HAUPTMANN
119分
ドイツ/フランス/ポーランド

監督:ロベルト・シュヴェンケ
撮影:フロリアン・バルハウス
音楽:マルティン・トードシャローヴ
出演:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、アレクサンダー・フェーリング

ちょっと今から仕事やめてくる

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 ブラック企業の営業マンとして働く若き主人公が疲れ果てて思わず駅のホームから線路に倒れこみそうになった瞬間に彼を助けた人間は、超久しぶりに会う小学校の同級生だった。その後、飲み屋に直行して乾杯した二人は徐々に仲良くなり、死ぬほど苦労していた主人公もやがては大きな契約を取れるようになるが。。。。
 というお話。ちょっとファンタジー色も混じっている。久しぶりに会った同級生のヤマモトが実は本当の同級生でなかったことが発覚し、それどころか彼の実在すら疑われるようになるというサスペンスっぽい展開もある。
 そんなことはともかく、一番気になるところは、主人公がどんなに疲れ果てても同僚に助けを乞うこともなく、パワハラ上司の支配下にあるだけ、というところ。労働組合を作って闘うという発想がそもそもないのだ。組合が無理でも、会社のハラスメント相談窓口に駆けこむべき案件なのだが、もちろんブラック企業だからそういうのもないのだろうなぁ。
 なので主人公の最終判断は「ちょっと今から仕事やめてくる」しかない。逃避行以外に救いがないという事実は救いがない。
 「おっさんずラブ」で理想の上司を演じた吉田鋼太郎がここではパワハラが服着て歩いているような上司を思う存分演じている。この落差が面白かった。
 これはもちろん労働映画のひとつ。こういう労働はつらい。 (Amazonプライムビデオ)
 2017
日本   114分 
監督:成島出
原作:
北川恵海
脚本:
多和田久美、成島出
音楽:
安川午朗
出演:
福士蒼汰工藤阿須加黒木華森口瑤子池田成志小池栄子吉田鋼太郎

男はつらいよ お帰り 寅さん

f:id:ginyu:20191229164417j:plain 山田洋次監督の「家族はつらいよ」では泣けないのに、「男はつらいよ」は大河ドラマの総集編みたいな今回の「お帰り寅さん」でさえ泣いてしまう。そのぐらい多くの人の、特に中高年の琴線に触れるものがあるのがこのシリーズだ。

 お帰りといっても寅さんが実際に帰ってくるわけではない。寅さんは長い間家族の前に姿を見せていないという設定なのだ。物語の主人公は車寅次郎の甥、諏訪満男だ。

 寅さんが最後に姿を見せてから22年、実際には24年が経った。サラリーマンだった満男は作家に転身してそれなりに成功している。初恋の相手だった泉とは結局うまくいかなかったと見えて、別の女性と結婚して一女をもうけた。しかしその妻も亡くなって7年になる。という現状を説明する冒頭のシーンが手際よくさばかれる。

 今回の第50作は2019年現在の寅さん一家が描かれ、寅次郎は満男たちの回想の中でその姿を現す。その回想シーンがデジタル化によって見事に蘇った美しい映像と音声で驚くべき鮮明さでスクリーンに広がる。若かりし頃のさくらの皺ひとつない顔、初々しい満男、滑舌よくまくし立てる寅次郎の口上、すべてが感動的だ。

 シリーズの第1作ではすでに後の作品すべての原型ができあがっていて、寅次郎は美女を見ると一瞬で恋に落ちるという特技を発揮し、相手がその気になっても土壇場で逃げ腰になる。ご都合主義も極まれりという偶然が次々と重なって、テキヤ寅次郎の行く先々で満男たちに遭遇したりマドンナに再会する。第1話で誕生した甥の満男は寅次郎に似ていると言われて、その後のシリーズの展開を暗示していた。だから第50作の満男が優柔不断だったり、ものすごい偶然で泉に再会するなんていうのは当然と言えば当然なのだ。

 このシリーズを全作通してみれば、1969年からの日本の社会史・技術史が見える。渡船料金や食堂のメニューや値札など、山田洋次はそのときどきの生活を細かく映像に刻み付けていく。寅さんの妹さくらの夫が勤める小さな印刷工場の現場が何度もカメラに撮られるが、その工場では活版印刷から電算写植に変わっていく時代の変化が活写され、サラリーマンになった満男のデスクの上にはシャープのワープロ「書院」が置かれていたのが、やがてはノートパソコンに取って代わられる。携帯電話が普及し始めたころ、受話器にコードがつながっていないことに戸惑う寅次郎の姿もさりげなく描かれていた。

 そういえば、「男はつらいよ」などというタイトルがそもそもジェンダーバイアスの権化だし、今の時代にはふさわしくない。シリーズを通してずっと寅次郎は「男はなぁ」「男ってもんはなぁ」と、「男らしさ」に呪縛されていた。今なら寅さんも肩肘を張らずに生きられたかもしれない。いや、今でもきっと寅さんは男らしさにこだわって「生きにくい時代になったもんだぜ、まったく」とぼやいているのではないか。世の中が変わっても寅さんは変わらない。

 日本の労働映画100選にも選ばれた「男はつらいよ」、若者にはぜひシリーズを通して働く人々の姿や世相の移ろいを知ってほしい。頑固で意地っ張りな寅さんのやさしさに触れてほしい。

 山田洋次はどこにもない架空の理想家族を描いてきたのではないか。山田監督が描く庶民の生活は「こうであってほしい」という願いが込められた、少しずつリアルな、大きくは非現実的な家族の姿であった。その少しずつのリアリティが多くの人々の心のどこかに必ず響くものを持っている、そんな普遍性を宿しているのだ。

 この50作目もまた、切なく懐かしく優しく楽しい作品になっている。よくぞ古い作品をつないでこのような感動作を作り上げたものだ。「ニューシネマパラダイス」のラストシーンを思い出させる、編集の妙だろう。桑田佳祐による主題歌の熱唱も見どころ。老若男女すべての人に見てほしい。

 2019 

日本
監督:山田洋次
原作:山田洋次
脚本:山田洋次、朝原雄三
主題歌:桑田佳祐
出演:倍賞千恵子前田吟吉岡秀隆後藤久美子夏木マリ浅丘ルリ子渥美清

カツベン! 

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 活動写真弁士が大活躍していた大正時代の映画館を舞台に繰り広げられる、映画愛に溢れたコメディ。最後は大立回りのアクション映画に! 大笑いして楽しめる、映画ファンのための一作。
 1916年、(大正5年)貧しい子供時代を過ごす俊太郎と梅子は活動写真が大好き。今日もお気に入りのカツベンが説明する作品を見たくてたまらないが、金がないのでこっそりと便所の隙間から劇場に入り込むのであった。将来はカツベンになりたい。そんな夢を抱いたまま、10年が過ぎた。今では泥棒一味に引き込まれて偽弁士と成り下がった俊太郎。警察に追われて逃げる途中で一味からも逃げ出し、地方の映画館である青木館に拾われる。。。
 コメディ映画なんだから、難しい筋立てはなにもない。ほぼ予想通りに展開していくわけだが、細部がいちいちツボった。斜陽となった青木館の館主夫婦が竹中直人渡辺えり子ですよ、登場するだけでキャラが濃すぎて怖い(笑)。
 当時は映画の中身よりもカツベンの話を聞きたくて映画館に来る客が多かったという。だから、カツベンはスターなのだ。そうなるとせっかく監督が作った作品がカツベン次第でいくらでもストーリーやら演出が変えられてしまうというわけだ。これ、日本独特の文化で、うちのY太郎28歳在フランスは「活動弁士が日本映画をダメにした」と言って怒っている。
 それはともかく、かつてのスターカツベンを演じた永瀬正敏も主役の成田凌も実に声色を何通りにも使い分けてよく通る声でしゃべっている。よほど練習したのだろう、素晴らしい出来栄えだった。映写技師もキャラが濃くて、フィルム愛に溢れている。彼がフィルムの切れ端を集めているシーンは「ニュー・シネマ・パラダイス」へのオマージュだ。これが最後に生きてくる伏線回収も笑いのツボ。
 ラストシーンで大写しになるキャラメルの菓子メーカーの名前がなんと! ここも笑いどころ。
 見どころ笑いどころはいつくもあるが、特にお薦めは挿入されているサイレント映画の数々。これはこの映画のためにわざわざ新たにオリジナル作を作ったり実在の映画を再現したというから、その熱のこもり具合に感動する。
 貧しかった日本社会にあって人々に娯楽を与えた活動写真がやがて「映画」と呼ばれるようになる時代の移り変わりのその狭間を描いた作品として、本作は永久に心に残るだろう。これは大正デモクラシーと軌を一にする映画史でもある。あと10年もすれば映画はほぼすべてトーキーとなり、楽士も弁士もその職を追われる。やがては全国各地で映画従業員組合が結成され、映画館争議が多発するのだ。1934年末に製作された美しい労働組合旗を当館では所蔵している。弁士たちの組合にふさわしいデザインと言えるだろう。

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第三夫人と髪飾り

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 夢の中にいるような気分にさせてくれる、桃源郷の物語。いやそれは、19世紀を生きた女たちの生と性と、そして生と死の物語だ。監督自身の曾祖母の人生を元に描かれたという。
 今では観光地として知られているベトナム北部の世界遺産の景観は、山肌を縫うようにゆったりと流れる川面に跳ね返る光が柔らかで心地よい。映画にはほとんどセリフがなく、尺八に似た笛の音が民族音楽を思わせる旋律を奏ででいく。
 14歳の花嫁メイは川を下ってやってきた。若く愛らしく好奇心に満ちた大きな瞳を持つ彼女は大富豪の第三夫人となるためにお屋敷に嫁いできたのだ。初めて見る夫には第1夫人とその息子、第2夫人とその娘たちが既にいた。跡取り男がもう一人ほしいと望んだ夫は自分の子どもぐらいの年齢の若い女を求めたのであろう。
 第1夫人は美しく大人の魅力に満ちている。第2夫人も優しく色気をそこはかとなく漂わせている。男子を生んだ第1夫人だけがこの家では「奥様」と呼ばれると女中に教えられたメイは、男を生めない女には生きる価値がないということを知った。
 3人の妻たちは嫉妬にまみれて夫を取り合いするかと思いきや、とても仲が良い。幼な妻のメイに、第2夫人は髪飾りを使って女の身体の構造を教え、夜の営みについてあからさまに語る。この猥談のシーンがなんともいえず可笑しい。そして、この映画には全編にわたって女の身体性についての言及がある、そのほんの入り口の描写に過ぎなかったことがほどなくわかる。
 屋敷の中では不倫があり、生き物を殺して食べるという日常があり、蚕を飼って糸を紡ぐという作業がある。そのすべてが夢見るように美しく描かれていく。繭の中の幼虫のゆったりとした動き、緑の木々や草原の花、女たちの美しい肌が露出する背中…。
 この邸宅には夫の老父も共に暮らしていて、まさに三世代同居の大家族である。その財力は蚕がもたらしたのだろうかと想像するが、説明的なセリフは一切ない。観客はメイの視線でこの家を見て回り、彼女とともに緊張し驚き軽い興奮を覚えていく。その大きな瞳とふっくらした唇はセリフ以上に多くを語る。ほどなく妊娠したメイはやがて出産のときを迎える。生まれてくる命と、消えていく命と、そのはかなさを知ってしまったメイは幼子をあやしながら不安にかられる。まだ十代半ばで生きる哀しみを知った少女は次の世代の女に何を残すのか。
 深い色彩ときらめく光と水とに彩られた静かな映像詩の美しさに耽溺し、この映画の世界に浸ってほしい。女たちの生は脈々と受け継がれ、女自身の目覚めによって籠の鳥から巣立つことができるのだというメッセージが込められたラストシーンに出会うだろう。

2018
THE THIRD WIFE
ベトナム  93分
 監督:アッシュ・メイフェア
製作:チャン・ティ・ビック・ゴック、アッシュ・メイフェア
脚本:アッシュ・メイフェア
撮影:チャナーナン・チョートルンロート
音楽:トン・タット・アン
美術アドバイザー:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー、マイ・トゥー・フオン、グエン・フオン・チャー・ミー、グエン・ニュー・クイン、レ・ヴー・ロン