吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

SCOOP!

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 これは好みが分かれそうな映画。わたしはまったく期待せずに見たので、「意外に面白いやんか」と最後まで楽しめた。しかし、なんだか時代設定が古臭いと思ったら、やっぱりオリジナルは1985年の作品だったのか。どうりで、今や写真週刊誌なんか売れないのに、なんでパパラッチがあれだけ必死に芸能人を追いかけるのかがよくわからなかった。とはいえ、今でも「文春砲」とかあるんだから、写真の威力は大きいのだろう。
 というわけで、男前の福山雅治がやさぐれ中年パパラッチカメラマンを演じる。巻頭いきなりカーセックスの場面。福山くんは街娼を買ったらしく、車に派手な女性を連れ込んでいる。そしてコトが終わるとすぐに車を発進し、夜の街を爆走する。狙った相手のスキャンダル写真を撮るためだ。
 彼はもとは社会派カメラマンだったらしいのだが、今はフリーのカメラマンでぐうたらな生活をしている。元雇われていた出版社に写真を売りつけにいくと、なぜかその会社の週刊誌の新人女性記者の教育係を頼まれる。依頼したのは吉田羊が演じる、気のキツそうな編集者。この人、これまでもどこかの作品で見ているはずだけれど、今回はえらく美人なので驚いた。強烈な個性の「編集長」役がよく似合っている。
 で、新人女性記者対中年スケベカメラマンのコンビは予想通り、最初から衝突を繰り返すが、やがて徐々に互いを認め合うようになり、、、という展開。
 ただし、そうそう簡単に事が運ばないところがなかなか食わせもので、パパラッチの芸当ぶりも面白く、リリー・フランキーのいかれたジャンキーぶりも演技力に脱帽、とけっこう見どころがある。ただ、どうしても福山の役が本人のキャラにあっていないと思えて、無理に悪ぶっている感じが漂うのがいかん。男前すぎると役の幅が狭くなってしまうね、損だ。
 結末はけっこう切なかったので、そこそこいけてる映画じゃないかと思わせた。ただし、派手なコメディの部分があまりわたしには合わない。中途半端だからだろう。演出のトーンが一定しない感じがして、ずっと小さな違和感を持ちながら最後まで行ってしまった。二階堂ふみのベッドシーンはなんで下着をつけたままなんだ。この中途半端さが違和感の原因か。あと、福山雅治カメラマン「転落」の原因とか、恋人と別れた経過とか、過去がはっきり描かれていなかったことも不満点。だけど、面白いので見てね。(Amazonプライムビデオ)
スクープ
2016、120分、日本
監督・脚本:大根仁
撮影:小林元、音楽:川辺ヒロシ

僕のワンダフル・ライフ

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  犬の映画ならこの人!というわけで起用されたのかどうかは知らないが、ラッセ・ハルストレム監督作品。輪廻転生ならぬ、輪廻犬転である。人生ならぬ犬生についてあれこれと犬目線で語る映画だから、「吾輩は犬である」の世界である。 

 とにかく犬が可愛い。主人公のベイリーという名の犬は、なんども生まれ変わっていろんな犬になるのだけれど、どんな犬に生まれ変わっても可愛い。性格がいい。

 物語の始まりはキューバ危機に揺れるアメリカの田舎。ケネディ大統領時代から始まる何十年もの物語を紡いでいき、そのときどきの流行音楽がかかる。サイモンとガーファンクルが実によかった。絶妙のタイミングで「四月になれば彼女は」がかかるとちょっとゾクっとした。

 犬は飼い主よりも先に死ぬ。これがつらいので、わたしはもう二度と犬を飼いたいと思わない。この映画を観て、小学生のころから15年間実家で飼っていたシロのことを思い出し、またもやウルウルしてしまった。犬は賢い。自分の名前をわかっているし、飼い主家族のヒエラルキーも理解している。うちのシロはわたしの父に叱られたらシュンとしていたが、わたしや弟が叱っても全然効果がなかった。「お父さんは怖いねんなぁ」と感心したものだ。

 して、本作ではベイリーが何度も生まれ変わるから、そのたびに赤ん坊犬が登場して、これがまた可愛くてかわいくてたまりません。ベイリーにとって幸せな一生だったりそうでなかったりと飼い主によってその犬生が著しく変わってしまう、というのはかわいそうなことだ。

 この物語でベイリーが何度も生まれ変わるのには理由があったのだ。それは、彼が愛してやまない飼い主のイーサンにもう一度出会うため。そして、イーサンを幸せにするためなのだ。ベイリーは人間の言葉のすべてが理解できるわけではないけれど、人が恋に落ちる瞬間の甘い匂いがかぎ分けられるし、飼い主が幸せかどうかもちゃんと匂いでわかってしまう。人間よりよほどコミュニケーション力があるんじゃないか。

 芸達者な犬の演技に感動し、ほろりとさせる幸せな映画。もう二度と犬は飼わないと思ったのに、この映画のせいでちょっとだけ「飼いたいなぁ」と思ってしまったよ。(Amazonプライムビデオ) 

(2016)
A DOG'S PURPOSE
100分、アメリ
監督:ラッセ・ハルストレム
原作:W・ブルース・キャメロン『野良犬トビーの愛すべき転生』(新潮文庫刊)
脚本:W・ブルース・キャメロン、キャスリン・ミションほか
音楽:レイチェル・ポートマン
出演:ブリット・ロバートソン、K・J・アパ、ジョン・オーティス
ペギー・リプトンデニス・クエイドブライス・ガイザー  
声の出演:ジョシュ・ギャッド

家族のレシピ

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 群馬県にある、行列のできるラーメン屋の店主が急死した。遺された息子真人(まさと)が本作の主人公で、彼は日本人の父と中国系シンガポール人の母との間に生まれ、十歳で母を亡くし、二十数年後の今また父を亡くしてしまった。

 かくしてルーツを求める真人の旅が始まる。十歳まで両親と共に住んでいたシンガポールへと赴き、母の親戚を探し訪ねていくのだ。手掛かりは母が残した中国語の日記。旅の案内人は現地の日本人ブロガーの美樹。母の思い出をたどり、幼い頃に食べた叔父の作るバクテー(骨付き豚肉の煮込み)を求める真人は、やがて母と祖母との悲しい記憶へとたどり着くことになる。

主役の斎藤工の演技が素晴らしい。酔いつぶれて机によだれを垂らして眠っているシーンの芸の細かいところなど、これは監督の演出力でもあるが、彼はセリフ回しも自然で、かつしっかりセリフが聞き取れる。日本とシンガポールの間に生まれた人間としての複雑な思いを寡黙な表情から伝える、という難易度の高い演技を見せてくれる。

 美樹を演じた年齢不詳の松田聖子は美味しい役をもらったものだ。これは役得と言えよう。長らく海外で暮らして母子家庭の母となり、趣味でグルメガイドを書く人気ブロガーとなった今、昼間はカジュアルないでたちで真人に安い料理屋を案内してくれるガイド、夜はバーのカウンターに立つ色っぽいママさん、という役柄。

 そして映画の魅力の半分以上が熱々のシンガポール料理の数々だ。真人が追い求めるバクテーといい、蟹の炒め物、スパイス、スープ、そして異国での和食に至るまで、手間暇かけた心づくしの料理のオンパレードに、お腹が空いてたまらなくなる。

 日本とシンガポールの歴史は戦争を抜きには語れない。2017年に開館した国立戦争博物館では日本軍によって残殺された人々の記録が展示されていて、真人もそこを訪れる。母と祖母の不和もこの戦争が原因なのだ。日本とシンガポールに引き裂かれた真人の心は、そして固くなってしまった祖母の心は、彼の作る料理によってほぐすことができるのだろうか。

 89分という尺に手際よく現在と過去の回想を配置した手練れの演出を感じさせる本作は、予定調和的な物語だけれど、やはり食べ物には人の心を癒す力があると痛感させる素晴らしい作品。なぜデートはディナーなのか。なぜ学会の後には必ず懇親会があるのか。美味しい食事を共にすることで人は心がほぐれ、垣根が取り払われるのだ。

 フランシス・レイの曲のような抒情的な音楽も美しく、心が洗われる。

 映画を見終わった瞬間にバクテーが食べられる店を検索したことは言うまでもない。

 ところで本作はミュージアム映画・アーカイブズ映画でもある。真人が訪れる戦争博物館シンガポール国立公文書館が運営する、日本占領下のシンガポールの記録を展示する施設である。日本帝国統治下のシンガポールの呼称であった「昭南」をその名に冠したミュージアムにしようと政府が発表したところ、市民の反対にあって撤回されたといういきさつがある。

 シンガポールに行く機会があればぜひ訪れたい場所の一つだ。

2018
RAMEN TEH、89分、シンガポール/日本/フランス

監督: エリック・クー

出演: 斎藤工 、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志別所哲也松田聖子 

ファントム・スレッド

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 功成り名を遂げた初老の男にとって、大事なのは自分の仕事であり、自分だけの時間だ。たとえ若いミューズを見つけて一緒に暮らし始めたとしても、所詮は彼女は彼の仕事(の一部)にとって大事な存在であり、あるいは息抜きにしか過ぎない。しかし女のほうはそうではない。彼女には何もない。彼への愛以外はなにもない。だから、彼に愛され、彼に見つめられ、彼から大事にされることだけが生きがい。
 そのような愛のすれ違いが如実に描かれた作品。この映画を今見るからこそ、その意味がとてもよくわかる。若いころならあほらしくて見ていられなかったようなストーリーだ。
 原題の”PHANTOM THREAD”は幻の糸、という意味だろうか。主人公ウッドコックはロンドンのオートクチュールのハウスの主人。彼の店の外観も内装もどうみてもフランス風なのだが、舞台は1950年代のイギリスである。そして、「メゾン」と言いたいところが「ハウス」になる、デザイナーの世界。「店」ではなくまさに「ハウス」と言えるような仕事場は、ウッドコックの自宅兼店舗兼作業場だ。顧客は伯爵夫人であり裕福なマダムたち。
 主要な登場人物は三人。ウッドコックと、彼に見いだされた元ウェイトレスのアルマ、そしてウッドコックの姉。アルマはその完璧なスタイルのためにウッドコックに招き入れられ、やがては一緒に暮らすようになるのだが、アルマの品のない食事作法がウッドコックの癪に障る。
 気難しいウッドコックとアルマは所詮階層が異なる人間同士。愛し合っているといってもその愛は容易に憎しみに変わる。ウッドコックの姉は人生を弟のために捧げたような人間で、独身のまま年老いてしまった厳しい女性である。
 この映画について何よりも目を見張るのはその美術。何度も人々が上り下りする「ハウス」の階段、部屋、ドア。もちろん素晴らしい衣装。これはアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞した。主役3人の顔がしばしばアップになり、大変な緊張感を画面にもたらす。ダニエル・デイ=ルイスが高貴な佇まいと頑固なデザイナーのこだわりを厳格な演技で見せてくれる。肩が凝ってしまうほどの緊張感ある作品。
 愛のためならなんでもする、歪んだ情熱の持ち主アルマ、そしてその愛の狂気を見抜いているウッドコック。毒を食らわば皿までか。一人冷静に彼らを見つめる姉のシリルはマザコン男にとっては母の代わりでもあった。
 互いの求めるものが異なるのに、それでも愛し合い求めあうことをやめない男と女。不思議な映画の不思議なラストシーンは、そのまま二人が亡霊となっていく場面ではなかったか。
 最高に美しい映像と音楽を堪能できただけで良しとしよう。何よりもダニエル・デイ・ルイスに尽きる。(レンタルBlu-ray
ファントムスレッド
2017
PHANTOM THREAD
出演:ダニエル・デイ=ルイスレスリー・マンヴィルヴィッキー・クリープス

大空港2013

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「short cut」に続いて三谷幸喜のワンカットテレビドラマを見てみた。これまた面白い。しかし、ワンカットものならやっぱり「short cut」のほうが会話の妙味が冴えていた分、面白みは上だと思う。この大空港は舞台が広がり、登場人物も何倍にも増えた分、ちょっと群像劇の散漫さが出てしまったように思う。思うが、それでも面白くて笑いながら見ていた。
 舞台は松本空港。なんにもない空港で、地上勤務員の竹内結子も暇でしょうがない。そこへ羽田空港周辺の悪天候のために羽田に降りられなかった乗客たちがやってくる。乗客対応を命じられた竹内結子と、いろいろ訳ありな田野倉一家6人とのドタバタコメディ。シチュエーションコメディなのでテーマに深みもなければドラマ性もないのだが、それでもじゅうぶん面白い。
 役者が豪華なのに驚いてしまう。みんなうまいわ、特に田野倉の妻・神野美鈴の脱力系の色っぽい演技は絶品。また、ワンカット故の条件の厳しさが垣間見えてそこがまた笑いのツボ。役者が少々セリフを噛んでもそのままカメラは止めないし、おそらくアドリブに違いない、香川照之生瀬勝久のからみなんか面白過ぎて腹を抱える。香川照之が笑いをこらえながら怒る演技をしている様子がこちらにも見えてしまうので、一層可笑しい。舞台劇を見るような臨場感がある。ワンカットでカメラが動くために、時々光が入って画面が見苦しくなるのも愛嬌か。
 それより驚いたのは、オダギリジョーの七変化である。よくこの短い時間に着替えたもんだわ。
 というわけで、法事帰りの一家には浮気やらよろめきやらバツ3男との結婚話やらカミングアウトやら詐欺やら、いろいろあるのであって、最後はめでたく(もなく)松本空港を離陸する。松本空港(愛称は信州まつもと空港)自体が馬鹿にされているところも愛嬌か。よくロケさせたわ(笑)。田野倉一家が食べていた「とんかつラーメン」て、ほんとにメニューにあるんだ、これまた二度びっくり。(Amazonプライムビデオ) 
(2013)
 TV映画
監督・脚本:三谷幸喜撮影:山本英夫音楽:荻野清子

Short Cut

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 これはケッサク。笑いつつ、感心しつつみていた作品。三谷幸喜のテレビ作品なので、場所は狭いし登場人物はほとんど二人で、「これひょっとして中井貴一鈴木京香の二人芝居なのか?」と怪しんだころに絶妙のタイミングで三人目が登場するという三人芝居。全編ワンカットというところがさらにすごい。また、ちゃんと山を下りていく過程が描かれているから、これはやっぱり舞台では無理だと思わせる広がりはある。
 というわけで、どんなお話かというと、ド田舎の山道で車が立ち往生したとある夫婦が、このままではにっちもさっちもいかないと納得して下車し、なんとか国道のあるところまで歩いていこうとする行程をほとんど夫婦の会話だけで成立させたもの。
 なにしろド田舎なので携帯電話の電波も立たない。そこは妻の実家のあるところで、結婚10年を過ぎた夫婦は実は普段は別居しているのだけれど、妻の実家で法事があったから仮面夫婦よろしく二人で参列したのであった。
 ここから先が面白い。国道まで出ようと二人は協力するのかしないのかよくわからない態勢で下山する。その過程で、妻たる鈴木京香がすごい運動神経をみせて木に登るわ、川に入るわ、山道を飛び跳ねるように降りるわ、驚くべき動きを見せる。一方の夫たる中井貴一は何かあるたびにいちいち叫んだり怖がったり、都会坊やのアホさ加減を丸出しにして笑いの的。
 観客にはこの夫婦のこれまでのいきさつは一切知らされないから、二人の会話を通していろいろと情報を得ることになる。そしていかにこの夫婦がお互いをないがしろにしてきたのかが判明し、お互いにいかに相手を知らなかったのかもわかる、というしくみ。
 先にも書いたように、この作品はワンカットで撮影されていて、その周到な計算ぶりには驚くばかり。たぶんアドリブとかセリフ舌噛みとかいろいろあったんだろうけれど、全部そのまま収録されていると思われるところもすごい。
 何よりも感嘆したのは鈴木京香のスタイルのよさとその敏捷性。中井貴一もこんなにコミカルな役ができたとは、なかなかのものである。
 二人が100分間にわたって山を下りていく最中にこれまでの夫婦の問題が剔抉されていくという趣旨であり、これはどんな夫婦にもありがちな話で、そういう点では普遍性のある話題であるところがついつい首肯してしまう点だ。会話劇でこれだけ魅せるのも三谷幸喜の腕と言わざるを得ない。
 タイトルの「short cut」は近道という意味だから、夫婦は近道を下って行ったつもりなんだよね、でもそうじゃなかった。そして、人生には近道なんかないんだよ。なかなか含蓄に満ちておりました。(Amazonプライムビデオ)
ショートカット
2011、TV映画、112分、日本
監督・脚本:三谷幸喜

夜明け

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 是枝裕和監督の弟子である、広瀬奈々子監督のデビュー作。なるほど、作風がよく似ている。是枝監督と同じく、物語に落ちを付けない人だ。

 物語は、8年前に妻子を亡くした中年男がある日河原で倒れている若者を拾い、自宅で介護して自分が経営する木工所で働かせるようになる、というもの。訳ありの若者が柳楽優弥で、「ヨシダ・シンイチ」と名乗ったが本名ではない。過去を何も語りたがらないシンイチは、偶然にも彼を拾った哲郎(小林薫)の亡き息子と同じ名前だった。シンイチは徐々に木工所の仕事を覚えていき、職場にもなじみ始めたかに見えたが……。

 柳楽優弥の演技を久しぶりに見たのだが、彼は悩みながらこの役を演じているように見えた。それは脚本のせいかもしれない。主人公シンイチはその内面を見せないために、何を考えているのかよくわからない。いやそうではなく、何を考えているのかはわかるのだが、その感情の表出のタイミングがわたしには理解できない。なんでここで切れる? なんでここで泣く? なんでここで呆然としている? みたいな感じで、いちいち演出が気になってしまう。

 そしてそのわかりにくさは最後まで続き、なんといってもラストシーンが一番わからない。ここで終わるのかあ、と愕然としてしまった。

 自分が犯した罪から逃れられず、自責の念を持ち続けるシンイチと、彼を息子の代わりに溺愛するようになっていく哲郎とが共依存関係を構築するのは時間の問題だった。しかしその依存と期待と圧迫を逃れようとしたシンイチの不器用さも目に余る。

 悪人はほとんど誰も登場しないのになぜか誰も幸せではない。さてラストシーン、シンイチはどこに向かうのか?

 ところで、木工所での家具製造の過程が多少とも映し出される本作は労働映画の一種ともいえる。ただし、そこにはあまり労働の楽しさや達成感が見えないのが残念。物語全体が暗すぎるからだろう。 

2018
113分、日本
監督・脚本:広瀬奈々子、
撮影:高野大樹、音楽:タラ・ジェーン・オニール
出演:柳楽優弥YOUNG DAIS、鈴木常吉堀内敬子芹川藍、小林薫