吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ドント・ウォーリー・ダーリン

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 既視感の強い、1950~60年代アメリカ郊外の美しく整序された街並み、高級車、美しい妻たち。まるで映画「レボリューショナリー・ロード」のようではないか。夫たちはみな同じ会社、ビクトリー社に勤めていて、その会社は砂漠のど真ん中にある。妻は全員専業主婦で、掃除洗濯料理に忙しい。夜は近所の家族たちが誘い合ってホームパーティを楽しんでいる。そもそも彼らが住む町は砂漠の真ん中にポツンと作られたものであって、そこからどこへも行けないのだ。

 そんな不自然な日常生活に、ある日忽然と疑問を抱くようになったのがヒロインのアリスだ。彼女の名前がなぜアリスなのだろう。不思議の国の少女そのままのような童顔の美しい若妻、アリス。演じたフローレンス・ピューは愛らしくて、若い頃のシャロン・ストーンから色気と邪気を抜いたような顔つきをしている。

 果たして夫たちは何の仕事をしているのか? ときどきアリスの頭にフラッシュバックしてくる謎の画像はなんなのか? 家の中のピカピカのガラス、いろいろな場所にある多くの鏡は何を映しているのだろう。徐々に不穏な空気が立ち込めていく。そしてある日、砂漠の中の会社の「本部」に向かって歩き始めた彼女はタブーを破ったことになってしまった。タブーを破った彼女には恐ろしいお仕置きが待っているのだ……

 割と早めに種明かしがされていくのだが、結末がどう転がるのかがわからなくてハラハラする。アリスが趣味で通うダンス教室には近所の専業主婦たちが大勢いて、彼女たちがみな同じような顔をして踊っている様子は圧巻だ。そのダンスを真上のアングルから撮るカメラワークが見事で、万華鏡のような不思議な美しい映像を作り出しているところは感心した。

 平和で豊かで明るく美しい世界は理想だ。女たちは仕事に追い立てられることもなく、毎日家事を楽しくこなせばそれでいいのだ。夫たちは毎日ピカピカの車に乗って出勤する。その世界に疑義を挟むことさえなければ一生幸せに暮らしていけたのに。

 真実を知ってしまったアリスには選択肢はないのか? 最後まで惹き付けられてしまった映画。オリヴィア・ワイルドが女優としてだけではなく、監督としてもかなりの才能を持っていると思わされた作品だ。あの超有名な作品と発想は同じなのだが、こちらのほうがリアリティがあるだけに怖い。「ステップフォード・ワイフ」の焼き直しのような話だが、なかなか面白かった。(Netflix

 2022
DON'T WORRY DARLING
アメリカ  Color  123分
監督:オリヴィア・ワイルド
製作:オリヴィア・ワイルド、ケイティ・シルバーマン
製作総指揮:リチャード・ブレナーほか
脚本:ケイティ・シルバーマン
撮影:マシュー・リバティーク
音楽:ジョン・パウエル
出演:フローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズオリヴィア・ワイルドジェンマ・チャンクリス・パイン